目次 I-2


§2 米国型コーポレートガバナンス

 1  米国型のコーポレートガバナンスは、相次ぐ会計不正により問題点が指摘された。
 2  米国では、企業不祥事の防止策として、米国企業改革法が2002年7月に成立し、運用されている。

米国型統治の基本フレーム
米国型統治の基本フレーム

 米国型のコーポレートガバナンスは、日本のそれより優れた面をもっていると考えられていました。しかし、相次ぐ会計不正による大型倒産が相次ぎ米国型ガバナンスも万全でないことが明確となっており、以下の問題点が指摘されました。

 [1] 米国の統治制度は制度としては理想的だが、運用に問題があった。
 [2] 雇われ経営者である取締役会が社外取締役を任命している。
 [3]  取締役会会長と雇われ経営者のトップである最高経営責任者とを別の人間にしていなかった。

 企業統治の問題は制度が整備されていることも重要ですが、根幹は形式ではなく個々の企業の実態に即した運用の中身が重要であるといえます。

 最も、透明度が高く、信頼性が高いといわれていた米国の資本市場の信頼性が大きくゆらぐ可能性が発生したため、以下のような企業不祥事の再発防止策として米国企業改革法が成立しました。1933年の連邦証券法、1934年の証券取引所法制定以来、最も大きな変更といわれています。

 正式には「Public Company Accounting Reform and Investor Protection Act of 2002:上場企業会計改革および投資家保護法」といい、法案を連名で提出したポール・サーベンス(Paul Sarbanes)上院議員、マイケル・G・オクスリー(Michael G.Oxley)下院議員の名にちなんで、「サーベンス・オクスリー法」と呼ばれます。日本では「企業改革法」と意訳されることが多いです。

 この法律は、全11章69の条文から構成され、公開会社会計監視委員会(PCAOB:Public Company Accounting Oversight Board)の設置、監査人の独立性、財務ディスクロージャーの拡張、内部統制の義務化、経営者による不正行為に対する罰則強化、証券アナリストなどに対する規制、内部告発者の保護などが規定されています。 米国企業改革法の主な内容は、以下のとおりです。

(米国企業改革法の主な内容)
項目 見出し 内容
第1章 公開会社会計監視委員会(Public Company Accounting Oversight Board、以下PCAOB) 従来は、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission:SEC)管轄下における法定監査業務を行う会計事務所の監査業務の品質を監視する機関として、米国公認会計士協会(AICPA)が1977年に設立した公共監視機関がありましたが、解散し公開会社監視委員会(Public Company Accounting Board :PCAOB)が新たに設置されました。
第2章 監査人の独立性(Auditor Independence) 監査人の独立性を強化するため、登録会計事務所が会社に対し、監査と同時に非監査業務を提供することを禁止しています。
第3章 会社の責任(Corporate Responsibility) 公開会社の監査委員会は、登録会計事務所の選任、報酬および業務監督に関して直接責任を負うこと、また、登録会計事務所は、監査委員会に対して直接報告する旨が定められています。
第4章 財務ディスクロジャー制度の強化(Enhanced Financial Disclosures) SECに提出される財務諸表を含む財務報告書は、GAAPおよびSCE諸規則に準拠して登録会計事務所により認識されたすべての重要な修正事項を反映するものでなければならないとなっています。
第5章 証券アナリストの利害関係(Analyst Conflicts Of Interest) SECまたはSECの権限と指示の下に自主規制機関である登録証券業協会または全国証券取引所が、証券アナリストの利益相反に関する規則を1年以内に制定することを要求していました。
第6章 証券取引委員会の資源(財源)および権限(Commission Resources And Authority) SECの主導的な活動を担保するために、2003年の歳出規模を3億ドル増額し、7億7,600万ドルとすることを承認していました。
第7章 調査研究およびその報告(Studies And Reports) 会計検査院院長に対して、調査研究を行い、1年以内に上下両院の委員会に報告書を提出するよう要求しています。
第8章 2002年企業および不正犯罪行為説明責任法(Corporate And Criminal Fraud Accountability Act of 2002) まず、書類改ざんに対する刑事罰として、意図的に改ざん、廃棄、削除、隠匿、偽造、又は虚偽の記帳をした者は、罰金もしくは20年以下の禁固刑またはこれを併科すると規定されています。
第9章 ホワイトカラー犯罪に対する罰則強化(White-Collar Crime Penalty Enhancements) 連邦刑法を改正して、刑事詐欺犯罪の未遂および共同謀議についても、犯罪を行った場合と同じ刑罰に処すると規定しています。
第10章 法人税申告書(Corporate Tax Return) 連邦法人税申告書に、CEOは署名をすべきとなっています。
第11章 会社の不正および説明責任(Corporate Fraud And Accountability) だれでも、文書等の改竄、破棄、隠匿等の目的や正式手続を中断させたり、影響を及ぼしたりもしくは妨害する行為を行った場合には、2,500万ドル以下の罰金もしくは20年以下の禁固刑またはこれを併科すると規定されています。

 これらの条文のうち、特に、第302条「財務報告に関する会社の責任(経営者の民事責任)」、第404条「経営者による内部統制の評価」および第906条「財務報告に関する会社の責任(経営者の刑事責任)」への対応は、企業に与える負荷および責任の大きさから、特に重要な課題と位置付けられています。同法は米国の公開企業とその連結対象子会社が適応対象となるほか、外国企業であっても米国各証券市場で株式公開をした場合には原則として適用されます。日本のSEC登録企業は当然ながら、SO法を遵守しなければなりません。したがって、SEC登録企業の経営者はSO法第404条に従って、会社の内部統制を整備構築し、内部統制についての文書化を行い、また、内部統制の有効性についての評価を実施し、その結果を文書により表明する必要があります。監査人はその経営者の行った評価プロセスを検討するとともに、監査人自らが財務報告にかかる内部統制の有効性について監査手続を実施し、その結果として内部統制に関する監査報告書を発行します。内部統制に関する監査報告書は、通常の財務諸表監査の監査報告書とともに年次報告書に添付されることになります。SO法第404条は、3月決算のSEC登録の日本企業の場合、2007年3月期より適用されています。

 

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