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10 任意整理のときの債権回収は

 取引先が倒産してからでは債権の回収は極めて困難である。たとえ抜駆け的に回収してみても、詐害行為の取消しや否認権の行使により返還しなければならなくなる。したがって、できる限り倒産前に相手方の危険な兆候を察知して回収の現実化と確実化を図っておく。これらの手法については、すでに第9章で述べた。

 実務上、企業倒産の90%以上は任意整理で処理されている。任意整理とは、裁判所の関与なしに債権者との話し合いで解決を図る方法をいう。その方法には、再建または清算の両方法があるが、現実には、倒産の場合、私的な形で債権者を集めて債務の一部放棄や分割払いの了解をとるというのははなはだ困難である。したがって、任意整理は清算型になる場合が多い。

 まず、債務者側から、倒産に至った経緯、お詫び、任意整理への協力要請、債権者集会の開催と出席要請などが記載された文書が送付されてくる。

 債権者集会への出席が強制されているわけではないから、特段の担保や保証があれば個別の回収ということも可能である。しかしそれらがないのであれば、債権者集会に参加するべきである。

 その手続きは、(1)債権者集会招集(再建型か清算型か、債権者委員選任)、(2)債権者委員会の委員長選任、(3)保全手続と債権額確認(再建案または配当案)、(4)当該案について債権者集会の承認(換価配当、残債権放棄)、となる。

 この手続きのなかで何らかの優先的回収方法を検討することになるが、主だったところでは、(1)相殺、(2)担保権実行、(3)強制執行、(4)個人責任追及、(5)自社納入商品の引上げ、などである。

 しかし相殺は、たまたま相手方債務者に対して自分も債務を負担していた場合に限られるし、担保権実行はそれ以前に担保権の設定が必要である。また強制執行はそれ以前に債務名義をとっておかねばならないし、個人責任の追及は後述するが保証などを取っていないとやはり困難である。

 自社納入商品の引上げは、動産売買の先取特権で担保されており、詐害行為になりにくいので、この時点でも有効な回収の現実化の手法である(具体的な手続きは『四訂・これだけは知っておきたい 会社で役立つ 日常業務の法律知識』第9章で詳述している)。

 これらの優先的回収方法があれば格別、通常は任意整理の流れに乗って回収していくことになる。この間、同意書や委任状の提出を求められることがあるが、十分な報告を受けたうえで、どの提案に同意するのか、また誰にどの範囲で委任するのかなどには十分な注意が必要である。

 

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