目次 6


6 契約の相手方

1 契約の当事者とは

 契約当事者とは、その契約から発生してくる権利や義務を取得負担する者のことであるから、法律上、権利義務の主体になることができるものでなければならない。これを「権利能力」という。これを持つ者には「自然人」と「法人」がある。

 「自然人」とはわれわれ生物である人間のことであり、「法人」とは一定の組織を有する団体に法律が権利義務の主体たる地位を認めたものである。すなわち、営利社団法人たる会社や、社団法人、財団法人などを指す。


2 会社との契約

 会社を相手に契約する場合、その契約書には相手の会社を正確に特定して記載する必要がある。

 そのためには、まず、会社の本店所在地、たとえば「東京都港区西新橋○丁目○番○号」と住所全部を記載し、ついで会社の商号を「○○株式会社」のように正確に記載すべきである。「(株)」などのような略称を用いるのは相手方会社を特定するうえで好ましくない。

 さらに会社は、法人という人であるとはいえ、自然人とは異なり法律がつくりだしたものであるから、自分自身で行為をできるわけではない。法人の中で一定の地位を占めている自然人のことを「機関」と呼ぶが、このうち法人を代表する権限を有している機関の行為を法人の行為と見るわけである。

 この代表権限を有する機関が株式会社では代表取締役(取締役会を設置していない会社では後述の特例有限会社と同じ)であり、特例有限会社の場合は代表取締役を定めることもできるが、定められていないときは各取締役が特例有限会社を代表する。合名会社では業務執行社員が代表し、合資会社では無限責任社員である業務執行社員が代表する。

  そこで、会社を相手方として契約をする場合は、本店所在地、商号についで、代表機関の肩書きとその機関たる自然人の名前を表記し、さらに代表社印を押捺する必要がある。すなわち「上記代表者 代表取締役 甲野太郎 丸印」となる。

〈例1〉当事者の表記
     東京都港区西新橋○丁目○番○号
                ○○株式会社
  上記代表者 代表取締役 甲野太郎 丸印


3 会社以外の法人との契約

 社団法人や財団法人のように営利を目的としない法人を「公益法人」という。また特別の法律に基づいて設立される学校法人、宗教法人、医療法人、各種協同組合も法人とされる。

 これらでは理事が代表機関とされているので、「上記代表者 理事 甲野太郎 丸印」という形式になる。

〈例2〉会社以外の法人の場合の表記
     東京都港区西新橋○丁目○番○号
             ○○農業協同組合
       上記代表者 理事 甲野太郎 丸印


4 個人との契約

 個人が単独で相手方となるときは、住民登録をしている住所地、個人名、ついで印を押捺する。

 本人を確実に特定するため、住所地は住民登録をしている住所、個人名は戸籍上の氏名、捺印は実印が望ましい。

 相手方が複数人の共同事業のときは、原則相手方全員と契約を締結するか、または複数人中の1人が他の個人を代理して契約する。

〈例3〉個人との契約で相手方が単独の場合の表記
     東京都港区西新橋○丁目○番○号
                  甲野太郎 丸印

〈例4〉個人との契約で相手方が複数の場合の表記
     東京都港区西新橋○丁目○番○号
                  甲野太郎 丸印
     東京都港区東新橋○丁目○番○号
                  乙野次郎
     東京都港区西新橋○丁目○番○号
          上記代理人 甲野太郎 丸印


5 未成年者との契約

 未成年者も権利能力は有するが、行為能力、すなわち単独で完全に有効な契約などの法律行為をする能力に原則として欠けている。そこで未成年者の場合は、その法定代理人の同意を取る必要がある。法定代理人は第一次的には親権者(原則父母が共同してなり、離婚しているときは一方が親権者と定められている)であり、ついで後見人がなることになる。法定代理人の同意なく未成年者が契約などを結んだ場合は、未成年者はこれを取り消すことができる。

〈例5〉相手方が未成年者の場合の表記
     東京都港区西新橋○丁目○番○号
                  甲野太郎 丸印
       同 所
       法定代理人父  甲野次郎 丸印
       同 所
       法定代理人母  甲野花子 丸印


6 代理人との契約

 代理とは、本人に代わることを示して代理人が意思表示をし、その法律効果を本人に帰せしめる制度である。そして法律効果が本人に帰するのは、本人が代理人に代理権を付与したからである。

 そこで、代理権の存否を委任状によって確認することが必須となる。

〈例6〉相手方が代理人の場合の表記
     東京都中央区銀座○丁目○番○号
                   甲野太郎
     東京都港区西新橋○丁目○番○号
           上記代理人 乙野次郎 丸印

  * 代理人と法定代理人
   代理とは、他人の独立した意思表示によって本人が直接その法律効果を取得する制度であり、この他人を「代理人」という。代理人のうち本人が選任したものを「任意代理人」という。「法定代理人」には、本人に対して一定の地位にあるものが当然に代理人となる場合(未成年者の親権者)、本人以外の者の協議による場合(協議離婚の際に定める親権者)、裁判所の選任による場合(親権者)がある。


7 担当者との契約

 担当者すなわち商業使用人も代理人(営業主を代理する権限を有する)である。支店長などはその支店に関する裁判上裁判外の包括的な代理権を有し(会社法11条)、部課長なども、その部などに関する範囲内の事項につき裁判外の包括的な代理権を有している(会社法14条)。

〈例7〉担当者が契約する場合の表記
     東京都港区西新橋○丁目○番○号
                  ○○株式会社
         上記営業部長 甲野太郎 丸印

 

目次 次ページ