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1 法律上なぜ文書は必要か

 ビジネスには文書が必要とされる場合が多く、そのうち権利義務に関するものや、それを証明するものを「法律文書」と呼ぶ。その代表例は、営業関係でいえば、領収証、請求書、注文書、注文請書、催告書、報告書、契約書、委任状などである。そしてその形式について、どのように作成すべきかなどの法律上の制約は原則としてない。

 これはもともと私的自治の原則(私法上の大原則)とそれから派生する契約自由の原則(締結の自由、相手方選択の自由、内容決定の自由、方式の自由の4つの自由が含まれている)に由来する。

 私的自治の原則とは、簡単にいうと、他人に迷惑をかけない限り私人間のことは自由である、官は余計な規制をしない、というほどの意味であり、歴史上人民が国家権力から勝ち取ってきたものである。

 したがって、方式も内容も規制がなく、書面にするかしないか、どのような内容を盛り込むかも自由なのであるが、実務上は重要なものであれば書面化が望ましいし、内容的にも、最小限「いつ(WHEN)」「誰が(WHO)」「どのような内容を(WHAT)」「誰あてに(WHOM)」(以上、4W)書いたかを明らかにすることが必要である。

 さて、方式に法律上の制約がないのであれば、文書を作っても作らなくてもよいはずなのに、なぜ文書を作成することが望ましいのか。

 それは以下のメリットがあるからである。

  (1)  内容を明確なものにすること。すなわち、誤解、思い違い、忘却等を防げること
 
 書面化することによってお互いの意思を再確認できるし、内容が複雑な場合に忘却等を防げる。これを考えただけでも、担当者の記憶だけに任せておくようなことでは確実な回収は望めないことが明らかであろう。

  (2)  後日の証拠となること。すなわち、紛争となった場合に、水掛け論を防止し、裁判上の強力な証拠となること
 
 裁判上の証拠としては、書面のみならず証人の証言なども法律上は等しく証拠として同じ扱いなのであるが、人証(証人の証言など)と書証(書面による証拠)には実務上証明力の違いがあり、一般に書証のほうが強力である。その理由は、利害がからむと人間は記憶に反することを発言することもあるので、いきおい裁判官は書証に重きを置くことになるからである。


 以上により、たとえ訴訟になった場合にも勝訴判決が取れる可能性が高い、すなわち確実な回収につなげていけるのである。また、勝訴判決の可能性が高いということは、相手方にしてみれば、たとえ訴訟までがんばってみても敗訴の可能性が高いわけであるから、訴訟で手間ヒマ金をかけてもムダになるということであり、それならば争わずに履行することにもつながる。すなわち、紛争の抑止力にもなるのである。

 そして話し合いで示談になるにせよ、確実な書面を保有していれば、示談の話を有利に進めることができるのはいうまでもない。

 

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