目次 第二編 〔二〕


〔二〕 確定決算と申告調整

 法人は各事業年度終了の日の翌日から原則として2か月以内に確定した決算に基づいて確定申告書を作成し、提出しなければなりません。

 ただし、会計監査人の監査を要する等の理由により申告期限までに決算が確定しない法人については、はじめて延長の承認を受けようとする事業年度終了の日までに「確定申告書の提出期限の延長承認申請書」を所轄税務署長に提出してその承認を受けることにより、その申告期限を1か月延長することができます。

 この確定した決算に基づく申告とは、法人がその計算書類について会社法その他の法令の規定に基づいて株主総会の承認、総社員の同意その他の手続による承認を得た後、その承認を得た決算上の利益を基礎として税法の規定による所得の金額の計算を行うため、決算上の利益と税法上の所得金額の差異について申告書において加算又は減算を行い、課税所得を算出するものです。



一 決算上の利益との関係

1 会計処理方法の採用について

 所得金額の計算に当たっては、決算上の利益が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されている限り、その計算を尊重することとされています。一般に公正妥当と認められる会計処理の基準とは何かについては明確な規定はありませんが、単に企業会計原則そのものをさすのではなく、業種、取引形態等により一般的に行われている会計処理の慣行をも含めて考えられています。

2 適正な会計処理の基準の尊重及び重要性の原則の適用について

 期間損益に関する事項については、その性質及び金額からみて課税上弊害がないと認められる限り、極力適正な企業会計の慣行を尊重し、また重要性の原則の適用(企業会計原則注解〔注1〕)を行うこととしています。その事例を具体的に列挙しますと次のとおりです。

(1)  適正な会計処理の基準の尊重の事例

   売上計上日(棚卸資産の引渡しの日)の判定
 棚卸資産の出荷日、相手先での検収日、相手先で使用収益できることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等棚卸資産の種類及び性質、販売契約の内容等に応じ合理的と認められる日において法人が継続して売上計上することが認められます。

   決算締切日
 決算締切日を商慣習その他相当の理由により継続して事業年度終了の日以前おおむね10日以内の一定の日としている場合、これが認められます。例えば月末決算の法人が請求書締切日の20日に売上高や仕入高の締切りをする場合です。

(2)  重要性の原則の適用の事例

   短期の前払費用
 未経過保険料、未経過割引料、未経過支払利息、前払賃借料のように、一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用で期末日現在まだ提供を受けていない役務に対応するものは、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものについて、継続して支払事業年度の損金に算入しているときは、これが認められます。

   消耗品費等
 事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品等の棚卸資産の取得に要する費用の額を継続して取得事業年度の損金としている場合はこれが認められます。

   貸付金利子等の帰属の時期
 金融保険業以外の法人が預金、貯金、貸付金又は有価証券から生ずる利子で支払期日が1年以内の一定期間ごとに到来するものを継続して支払期日の属する事業年度の益金としている場合はこれが認められます。ただし、例えば資金の転貸等貸付金と借入金とが明らかにひも付きの見合関係にあるものは、受取利息と支払利息は同一基準で損益計上すべきで、この利払期基準は適用できません。

   剰余金の配当等の帰属の時期
 他の法人から受ける剰余金の配当等の額でその支払のため通常要する期間内に支払を受けるものを継続してその支払を受けた日の属する事業年度の収益としている場合、これが認められます。

   著しく少額な作業くず又は仕損じ品の評価
 著しく少額な作業くず又は仕損じ品は、備忘価額で評価することが認められます。

   購入した棚卸資産の間接付随費用
 買入事務、検収、整理、選別、手入れ等の間接付随費用は、その合計額が少額(当該棚卸資産の購入代価のおおむね3%以内の金額)の場合、取得価額に算入しないことができます。

   製造等に係る棚卸資産の間接付随費用
 製造等の後に要した検査、検定、整理、選別、手入れ等の費用、製造場から販売所等へ移管するために要した運賃、荷造費等の費用、特別の時期に販売するために長期間保管するために要した費用は、その合計額が少額(当該棚卸資産の製造原価のおおむね3%以内の金額)の場合、取得価額に算入しないことができます。

3 粉飾決算について

 法人が粉飾決算により過大な申告を行っている場合は、税務計算において進んでこれを減算する更正は行いません。この場合は法人がその確定決算において修正経理を行い、それに基づいた確定申告書を提出するまでは更正をせず、更正を行った場合においても、その仮装経理に係る法人税額は直ちにその全額を還付することなく、まずその更正の行われた日の属する事業年度前1年間の各事業年度の所得に対する法人税額で更正の日の前日に確定しているものについて還付を行い、残額は更正の日の属する事業年度開始の日から5年以内に開始する各事業年度において納付することとなる法人税額から順次控除することとされています。


二 決算調整と申告調整

 法人税の確定申告においては、会社法の規定等によって算定された企業会計上の利益又は損失の額について税法の規定に基づき所得金額の増加要因又は減少要因となる金額を調整し、課税標準である所得金額又は欠損金額を計算します。企業会計上の利益又は損失の額の算定に当たって、税務上法人の選択が認められる事項については、法人税法上、「損金経理により……したときは、所得の金額の計算上損金の額に算入する」と規定し、いわゆる「損金経理」を要求しているものがあります。この「損金経理」とは、株主総会等の承認を受けた確定した決算において、費用又は損失として計上することをいいますが、この税法上所定の経理を行うことが要求される事項を「決算調整事項」といい、一方、その性質上確定した決算における経理が要求されず、申告書において調整を求める事項を「申告調整事項」といいます。法人税の正しい申告をするには、これらの事項について十分に理解することが必要です。

 次に、この決算調整項目を一覧表にしますと次のようになります。

1 確定決算に計上していなければ認められない事項

 これに属するものには、減価償却費や引当金等の繰入れのようにその額の決定を法人の意思にまかせている事項と、使用人賞与や役員退職給与のように損金経理で支給するか剰余金処分で支給するかを法人の意思にまかせている事項とがあります。これらは、申告書のみで調整することはできません。次のようなものが該当します。

■ 決算調整しなければ認められないものの例示 (申告調整は認められません。)
 引当金の繰入れ及び準備金の積立て
○貸倒引当金
○返品調整引当金
○海外投資等損失準備金※
○特別償却準備金※
○その他租税特別措置法に規定する準備金※
 固定資産等の圧縮記帳
○国庫補助金等による取得資産等(特別勘定経理を含む。)※
○工事負担金による取得資産※
○非出資組合が賦課金で取得した固定資産等※
○保険金等で取得した代替資産等(特別勘定経理を含む。)※
○交換により取得した資産
○特定の現物出資により取得した有価証券
○収用等に伴い取得した代替資産(特別勘定経理を含む。)※
○換地処分等により取得した資産
○換地処分等の場合の補償金に係る特別勘定経理※
○特定資産の買換えにより取得した資産(特別勘定経理を含む。)※
○特定資産を交換した場合の取得資産※
○その他の圧縮記帳
 その他の項目
○使用人兼務役員の使用人分賞与の損金算入
○役員の利益連動給与の損金算入
○減価償却資産の減価償却費の損金算入
○一括償却資産の一括償却対象額の損金算入
○繰延資産の償却費の損金算入
○少額の減価償却資産の取得価額の損金算入
○少額の繰延資産の取得価額の損金算入
○中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入
○資産に係る控除対象外消費税額の損金算入
○繰延消費税額の損金算入
○資産の評価損
  資産の評価損は次のような場合に認められます。
 (1) 棚卸資産…災害、陳腐化、会社更生法適用等の場合
 (2) 有価証券…上場有価証券価額の著しい低下、資産状態の悪化等の場合
 (3) 固定資産…災害、遊休、転用、所有地の状況の著しい変化等の場合
 (4) 繰延資産…対象固定資産が上記災害等の事実に該当した場合
○金品引換券付販売に要する費用の損金算入
○売上割戻しの損金算入
○不特定多数の者に対する抽せん券付販売に要する景品等の損金算入
○特約店に対する抽せん券付販売に要する景品等の損金算入
○法人税額に係る未納利子税の損金算入
○特許出願権の償却費の損金算入
○棚卸資産となる劣化資産金
○少額劣化資産の損金算入
○役員等に対する損害賠償金相当額の貸倒損の損金算入
○資本的支出のうち、少額又は周期の短いものなどの修繕費としての損金算入
○実質的に回収不能となった売掛債権等についての貸倒損失
売掛債権の総額が取立費用未満の場合の売掛債権について備忘価額を残しての貸倒損失
継続取引先との取引停止後1年以上経過した場合の売掛債権について備忘価額を残しての貸倒損失
○返品債権特別勘定繰入額の損金算入
○補修用部品在庫調整勘定繰入額の損金算入
○単行本在庫調整勘定繰入額の損金算入
○長期割賦販売等の延払基準の適用
○延払基準等の適用
○長期大規模工事等の工事進行基準の適用
○減価償却資産の特別償却費※

(注)  ※を付したものを、剰余金の処分による圧縮積立金や特別償却準備金などの積立て・取崩しが認められています。事業年度中の剰余金の処分による積立て等の経理を対象とするほか、従前の利益処分方式に相当するものとして、決算日の翌日から決算の確定日までの間に行われた処理として取り扱います。租税特別措置法上の各種準備金等についても同様であり、従前の取扱いが実質的に維持されています。
 なお、法人税法上の積立金・準備金の積立て・取崩しは、法令の規定に基づく剰余金の項目の増減に該当しますので、これらの金額の積立て・取崩しについては、株主総会の決議を経ないで行うことができます(会社計算規則第181条第1項かっこ書、第2項)。

2 申告書での記載がないと認められない事項

 これに属するものは、租税政策等により税法上特に損金算入又は益金不算入が認められている事項で、申告書に記載がある場合に限り、その記載された金額の範囲内において損金算入又は益金不算入が認められ、当該額を超えてまで税務当局が進んで認めることをしないものです。従って、これらのものは原則として、当初申告に当たって申告調整しておくことが必要であり、申告調整しなかった場合、修正申告書等においてあらためて調整することができませんし、また更正の請求の対象にもなりません。ただし、やむを得ない事情があるものと税務署長が認めた場合は、この限りでありません。

 なお、これらについては、確定申告書に損金算入額及び控除を受ける金額を記載し、かつ、その金額の計算に関する明細書を添付することが必要です。これには次のようなものがあります。

■ 申告調整をしなければ認められないものの例示
 所得金額から控除されるもの
○受取配当等の益金不算入
○剰余金処分による圧縮記帳積立金の積立て
○剰余金処分による租税特別措置法上の準備金の積立て
○特定住宅地造成事業、特定土地区画整理事業等に土地を譲渡した場合の特別控除
○私財提供等があった場合の欠損金の損金算入
○協同組合等の事業分量配当金の損金算入
○技術等海外取引がある場合の所得の特別控除
○新鉱床探鉱費又は海外新鉱床探鉱費の特別控除
○農業協同組合等の留保所得の特別控除
○収用等の場合の譲渡益の特別控除
棚卸資産の取得価額に算入した費用のうちの申告加算金額に係る貸方原価差額調整金額
資産の取得価額に算入した交際費等の損金算入限度超過額に対応する額の損金算入
 税額から控除されるもの
○所得税額の控除
○みなし配当金額の一部の控除
○外国税額の控除
○仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除
○試験研究を行った場合等の税額控除
○エネルギー需給構造改革推進設備等を取得した場合の税額控除
○事業基盤強化設備等を取得した場合等の税額控除
○中小企業者等が機械等を取得した場合の税額控除
○沖縄の特定地域において工業用機械等を取得した場合の税額控除
○沖縄の特定中小企業者等が経営革新設備等を取得した場合等の税額控除

3 積極的に申告調整を行うこととなる事項

 これに属するものは、税法において特に規定されている事項及びそれ以外において決算上の利益の計算が適正に行われていない事項について、確定決算とは関係なく申告調整を行わなければならないものです。これらについて申告調整が行われていないときは、税務当局において調整計算を行い更正することになります。

■申告調整を強制されているものの例示 (調整もれは否認されます。)
 事実に反した計算
○架空の売上高計上
○売上高の除外
○売上の繰上げ計上
○売上の繰延べ
○架空の仕入高計上
○仕入高の除外
○仕入の繰上げ計上
○仕入の繰延べ
○架空原価の計上
○仮受経理の売上等
○架空負債の計上
○架空経費の計上
○架空資産の計上
○資産の除外(簿外資産)
○負債の除外(簿外負債)
○明らかに当期の経費となるものの未計上額
 法令の規定によるもの
  (1)  損金不算入のための調整
○資本等取引に係る支出金(例、減資差損金)
合併受入資産の含み益、合併により引き継いだ資本金等の額、利益積立金額により充当又は消去されない合併差損
○事業年度終了の日までに債務の確定しない費用の計上額
○当期の費用とならないものの計上額
○減価償却資産又は繰延資産の償却限度額を超える償却額
○資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入限度超過額
○仮払役員退職給与の消却額
○剰余金処分等による役員退職給与
○剰余金処分又は利益積立金額から支出した寄附金
○法人税、住民税等及び当期確定申告分事業税等
○第二次納税義務に係る納付税額
○外国又はその地方公共団体が課する罰金又は科料相当額
○税額控除の適用を受ける所得税額、外国税額
○納税充当金計上額
○資産の評価損
○役員賞与、過大役員報酬、過大役員退職給与
○不正経理によって役員に支給した報酬の額
○役員の親族等である使用人に支給した過大給与及び過大退職給与
○剰余金処分又は利益積立金額から支出した使用人賞与
○資本的支出の費用計上額
○事業の用に供していない資産に係る減価償却費
○寄附金及び退職共済掛金等の未払金計上額
○使途の明らかでない交際費
○圧縮記帳限度額を超える減額又は圧縮引当金の繰入額
○引当金及び準備金の限度額を超える繰入額又は積立額
○交際費の損金不算入額
○寄附金の損金不算入額
○少額でない原価差損の額
白色申告法人が青色申告法人のみに認められている税法上の特典項目を損金経理した額
○国外支配株主等に係る負債の利子の損金不算入額
○国外関連者との取引に係る課税の特例の損金不算入額
  (2)  損金算入のための調整
○仮払寄附金
○当期の費用となるものの仮払金
○当期の費用となるものの未計上額
○過大な異常損失額等の繰延経理額
○納税充当金から支出した事業税等
○繰越欠損金の損金算入額
○災害損失金の損金算入額
○借地権の設定に伴う土地の簿価の一部損金算入額
○借地権等の更新料を支払った場合の借地権の簿価の一部損金算入
○申告等で確定している未払事業税
○減価償却資産及び繰延資産に係る償却超過額の翌期以降における償却認容額
○資産に係る控除対象外消費税額等の当期損金認容額
○前期否認したものの認容額
  (3)  益金不算入のための調整
○資本等取引に係る受入金
○法人税、住民税等の還付金
○所得税額の還付金
○資産の評価益
○利益積立金額を収益に繰り戻した額
  (4)  益金算入のための調整
○資産の譲渡による収入額(無償又は著しく低い価額の譲渡を含む。)
○無償又は著しく低い価額で資産を譲り受けた場合の時価との差額(受贈益)
○私財提供又は債務免除を受けた場合の収益の額
権利金の授受の慣行のある地域において無償又は著しく低い価額で借地権等を設定し、かつ相当の地代を支払わない場合における借地権等の時価との差額(借地権設定契約書で将来借地人が無償で土地を返還する旨定めその旨を所轄税務署長に届け出ているときは実際の地代の額と相当の地代の額の差額)
○還付事業税、還付加算金又は損金に算入した外国税額の還付金
○外国子会社の配当等に係る外国税額の益金算入
○返還を要しないこととなった国庫補助金等の特別勘定の益金算入額
○保険差益等の特別勘定の益金算入額
○引当金及び準備金等の取崩しを要する額
○収用等による補償金等の特別勘定の益金算入額
○買換資産を事業の用に供さない場合の益金算入額
特定外国子会社等の留保金額のうちの株式保有割合対応分の益金算入額(タックス・ヘイブン課税)

 

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