Robert Tie, CFE, CFP
翻訳協力:宮田泰平、CFE、CIA
訴訟弁護士は不正検査士の調査スキルを歓迎する一方で、報告書あるいは証言台ではっきりと情報伝達のできる不正検査士を求めています。
詐欺事件の裁判に関わる人は皆、それぞれ重要な役割を担う。不正を主張する原告、不正により訴えられた被告、弁護士、そして論争を審判する陪審員、それらの人々全てが司法手続において欠くことができない。また、技術的な専門家(不正検査士、法廷会計士など)は、錯綜した複雑な案件を公平に吟味し、解釈し説明するが彼らもまた不可欠である。専門家が提供する偏見のない分析と論評が得られないと、混乱と誤った信念が、裁判を執行する法廷の能力を妨げかねない。この記事では、訴訟サポートが提示する挑戦とは何か、そして法廷が正当で分り易い判決にたどり着くために必要とする実際の情報と技術的な洞察を、どうすれば(正しい訓練と経験を積んだ)専門職のCFEが提供できるかを探る。
訴訟サポートを提供するCFE は、各々の業務の範囲に応じて次の3 つの標準的なサービスの一部または全部を提供する。
証言専門家は公判廷で証人席に座り、双方の弁護士及び、必要に応じて、裁判官からの質問に答える。証言専門家は、特別な技術的経験と訓練を受けており、詐欺事件の訴訟で論点となる複雑な事実に対して専門的意見を述べる資格を持っている。
専門顧問も同様に資格を持っており、自分を雇った側に対してのみ同様の専門的助言を提供するが、証言はしない。
CFEは、しばしばこの両方の専門家としての役割を務める。しかし、「CFEのための法律101」で説明されている弁護士と依頼者間の秘匿特権のため、両方の職務に同時に従事することはできない。
FRAUDマガジンは、訴訟経験豊富な2人の(一人は証言専門家・専門顧問をしているCFEと、もう一人はそれらの専門家を雇用している弁護士)から、訴訟チームを支援するために果たす役割と必要なスキルと役割について話を聞いた。
ブルース・ドゥビンスキー氏(Bruce Dubinsky)(CFE、CPA、CVA)はACFE Board of Regentsの会長(Chairman)であり、またダッフ・フェルプスLLC(Duff & Phelps LLC:ニューヨークに本部を置く企業評価とアドバイザリを行う会社)でフォレンジックサービスにおける国際的なリーダーである。彼は、詐欺事件の裁判、複雑な税金やビジネス評価に関連する法的紛争において、不正調査を実施し、調査結果の報告書を準備し、証言専門家または専門顧問としての役割を果たしている。
彼の経歴は、CPAとして30年、CFEとしてほぼ20年に及ぶ。ドゥビンスキー氏は、史上最大のポンジ・スキーム詐欺事件であるマドフ(Madoff)事件の刑事裁判で連邦検察官側の調査官及び証言専門家となり、同時に多数の民事訴訟の破産管財人を務めた。
「訴訟サポートにおける3つの最も重要な要素は、準備、準備と準備です」とドゥビンスキー氏は述べている。「これは私が依頼人のために行うこと全て、即ち、調査を実行し、報告書を作成し、証言を提供することに共通するものです」
ジョン・ラウロ(John Lauro)氏(弁護士、元連邦検察官)は、ラウロ法律事務所(ニューヨークとフロリダ州タンパに事務所を持つ個人事務所)の創始者および代表者である。
彼は、多くの訴訟でドゥビンスキー氏や他のCFEを起用している。
「私の扱う知能犯罪は広範囲に及びます。今日は健康保険詐欺かと思えば、翌日には証券詐欺事件を扱っています。ですから、多くの異なる分野の証言や顧問の専門家に頼らざるを得ません」と、ラウロ氏は述べている。
ラウロ氏は、2005 年に初めてドゥビンスキー氏を、連邦証券詐欺事件の証言専門家として起用した。申し立てによると、ラウロ氏の依頼人(ビジネス用ソフトウェアを販売した会社の社長)は、複雑な詐欺的会計手法を使って収益を膨らませたと言われていた。検察側に有利な証言をすると予想された専門家からの証言に論駁するために、ラウロ氏はドゥビンスキー氏を雇用した。しかし、検察がその専門家を証言台に出さないと決めたため、ドゥビンスキー氏が証言する必要は無くなった。しかし、ラウロ氏はドゥビンスキー氏に事件の担当を続け、彼の専門顧問になるよう依頼した。それが運命の分かれ目だった。
陪審員が審議する間、ドゥビンスキー氏は証拠を分析し続けた。間も無く評決に入り、陪審員はラウロ氏の依頼人に有罪の判決を下した。しかし、それは裁判の最終結果にはならなかった。ドゥビンスキー氏の更なる分析に基づき、ラウロ氏は被告のインチキな会計業務はさておき、政府は本件を出訴期限である5年が経過するまで告訴しなかったことを、合理的な疑いの余地なく証明した。この証明により、裁判官は陪審員の有罪評決を破棄して、ラウロ氏の依頼人を無罪とした。
「政府は、決定的な告訴の時期を間違ったのです。ドゥビンスキー氏は私がすべての事実を理解できるよう手助けしてくれたので、私は完璧な弁護の準備ができ、その結果訴訟に勝つことができました」とラウロ氏は語った。こうして、ドゥビンスキー氏は証言しなくとも、専門家は裁判の結果に多大な影響を与えることができることを示した。
次の3つの鍵となる要素は、CFE が訴訟サポートを提供する際に、いかに効果的かつ倫理的に任務を遂行できるかに大きく影響する。
「専門家として、私の仕事は依頼人の為に訴訟に勝つことではありません」とドゥビンスキー氏は述べている。
「私の仕事は、完璧で客観的な調査を実行し、私が調査で見つけた証拠が示す結論に到達することです。私は、いかなる法的発見のためでも、原告被告のどちらかのためでもなく、自分の意見と結論だけを主張します。私は、誰があるいはどちらが有罪か無罪かとの意見は述べません。それは、裁判官または陪審員の仕事だからです」
ラウロ氏は「専門家は独立して意見を述べなければなりません。そして、専門家の証言は決して仕組まれたものであってはなりません」と同意している。ラウロ氏が価値を見出している専門家の他の特質は、問題に対する高度な習熟である。膨大な量の複雑な資料を理解し、裁判官・陪審員・弁護士が容易に理解できる言葉で説明する能力。そして、相手側の弁護士からの厳しい反対尋問の中で、自分の独立した意見を守り抜く技能と粘り強さである。
「専門家の最も価値ある資産は信頼性です。また、外見も重要です」とラウロ氏は述べている。「私が証人台に立つたびに、裁判官と陪審員は私を外見で品定めしています」とドゥビンスキー氏は付け加えている。「私はどのように振る舞えば良いのでしょう?私は自信に満ちて見えるでしょうか?」「彼らは、あなたの表情、神経質な顔のひきつりなど、全てに気がつきます」とラウロ氏は続ける。「証人台に立つとき、あなたは被告と同じくらい審判されているのです」
ドゥビンスキー氏は、専門家が犯しがちな過ちは反対尋問の中で相手の弁護士と議論することだと述べている。
「もし、質問に対する回答が解らなかったら、それを認めることです」とラウロ氏は述べている。「あなたがずさんでいい加減な仕事をしたという相手方弁護士の主張に反論するための再尋問に向けてあなたの側の弁護士が協力するでしょう」
「しっかりとした準備は、高くつきます」とドゥビンスキー氏は述べている。
「しかし、きちんと準備しなければ、あなたは裁判所でその代償を支払うことになります。依頼人は、それを理解し、受け入れなければなりません」専門家は、調査報告書、それを支える書類、直面するであろういかなる難問に対する答えの全てを徹底してレビューする事から始める。
「私は単独で、あるいは会社の同僚と一緒に準備を進めます。同僚は、わざと反論を展開する役割を演じてくれます」とドゥビンスキー氏は語る。「それは時間がかかりますが、私の信頼性にとって欠くことのできない作業です」ドゥビンスキー氏は準備の後に、彼を雇った検察官または弁護士と事例を検討し、証言の練習を行う。その練習は、模擬の尋問及び反対尋問に参加することを含む。
「私は、50もの裁判で証言して来ましたが、練習は依然として必要です」と彼は言う。「一緒に働いている弁護士が、自分にどんな質問をするかを学び、彼のやり方に慣れます。同時に、自分自身がどれだけ事例の事実とそれに対する自分の意見をよく理解しているかを感じ取ります」
「それは、我々双方にあてはまります」と、ラウロ氏は言う。「弁護士は、専門家に適切な質問するために、技術的な内容を充分に理解する必要があります。私があまり良く知らない問題を含む事例の場合、専門家の意見を確実に理解できる様に、講習を受けることもあります」と、彼は付け加えた。
「調査報告は、あなたの意見と結論とそれを裏付ける事実だけを含まなければなりません。それ以外は不要です」とドゥビンスキー氏は語り、また、1枚の図がしばしば千の単語と同等の価値があるとも言っている。「可能ならば、私は図式、時系列図とプロセス・フローチャートを使います」
例えば、マドフ裁判のドゥビンスキー調査報告(http://tinyurl.com/q7e6k27)では、3つのイラスト(図1、2、3参照)が、彼の発見事項の内容と意味を簡潔に伝えた。
この説明によって、報告書の利用者は、ドゥビンスキーの調査が、マドフが詐欺を組織化した財政的環境を明らかにし、合法的な収入の欠如がいかにしてマドフの会社がネズミ講(ポンジ・スキーム)であることを証明するのかを、速く正確に理解することができた。
マドフの管財人であるアーヴィング・ピカード(Irving Picard)は、ニューヨーク南部地区で多くの人々(その内5人に対しては米国司法省も刑事訴訟を提訴した)に対して民事訴訟を提訴した。ピカード氏は、彼の民事訴訟への専門的サポートを手配する際に、調査者兼証言専門家としてドゥビンスキー氏を雇った。その後間も無く、プリート・バララ氏(Preet Bharara)(米国弁護士)は、ドゥビンスキー氏がその民事訴訟のために書いた報告書を読んで、刑事裁判で証言させるために、彼を雇った証言台での4日間にドゥビンスキー氏は米連邦検事補佐ジョン・ザック氏(John Zack)による直接尋問、被告側弁護人による反対尋問とザック氏による再主尋問を受けた。
その刑事裁判は2013 年10月から2014年3月まで行われ、陪審員が被告5人全員に有罪判決を下した。
ドゥビンスキー氏は、CPAと監査役の仕事から始め、その後法科大学院で講義をしていた教師の課程で、税法の修士号を取得した。修士号と法律理論・実践に関する深い知識を得て、ドゥビンスキー氏は、法律事務所のために法医学的分析を開始する傍ら、税サービスの提供に注力した。結局、弁護士のための彼の博識な仕事は、証言専門家としてのサービスに発展した。
「CFE が遭遇するほとんどすべての詐欺は、財務関連です」とドゥビンスキー氏は言う。「故に、訴訟サポートの分野に入るためには、ビジネスが一般的にどう機能しているのか、そして、調査を行い、証言をするために働きたいと考える業界で、ビジネスがどう働いているのかを理解しなければなりません」もちろん、訴訟サポートの分野に入りたがっているCFEにとって、最大のチャレンジは、まず起用してもらうことだ。
「多くの弁護士が、彼らの取り扱っている多数の比較的小規模の詐欺事件に、専門家のサポートを必要としています」と、ドゥビンスキー氏は述べている。「多数の小規模な詐欺事件は、CFE が一般的な経験を積み、連邦・州両方のレベルでどのように活動すべきかを学ぶ良い機会です」
CPAの資格を持たずに専門知識を広げたいと考えるCFEに対し、ドゥビンスキー氏は、会計学士号を必要としない大学院レベルの法的会計プログラムの履修を勧めている。
訴訟サポートは価値ある仕事だが、我慢強く、断固とした決意を持つ者だけが応募すべきである。より良く知るために、本文下のResourcesに掲載した参考文献とセミナーを試してみることをお勧めする。あなたがどのキャリアパスを選ぶにしても、知識の集積と熱心な同僚の友情は、あなたの背中を押してくれるだろう。専門家のネットワークつくりに時間を割き、あなたがどのコースを選ぶかについては偏見にとらわれず柔軟に考えて良いだろう。継続的な教育は、あなたの現在の技術を最新に保つ以上の意味がありうる。それは、新しくて魅力的な専門的能力を高める絶好の機会でもある。
(訳注:Bernard Lawrence Madoffの姓のカタカナ表記は、正しくはメイドフとされているが、マドフが広く使用されているため、この記事ではマドフ、マドフ事件という表記に統一した)
Robert Tie, CFE, CFP FRAUD Magazineの寄稿編集者であり、ニューヨークのビジネスライターである。。 |
補足記事 (Sidebar)
CFEのための法律101
最低条件(Minimum requirements)
どんな形の訴訟サポートを提供するにせよ、CFEは特定の法的基礎を明確に理解しなければならない。詐欺関連の犯罪がどんな作為または不作為で構成されているのか、そして、関連証拠の収集・保管の欠陥が裁判所で承認されないとならないように、いかに関連証拠を収集・保管するべきかを理解することも必要だ。更に、依頼人は証拠を不注意に傷つけやすい(特にそれが電子的情報の場合)ので、CFEは証拠の完全性を保護するように依頼人を教育、指導しなければならない。 権限を越えないこと(Don't exceed your purview)
「弁護士資格を持たないCFEは、決して法的助言を提供してはいけません」と、ACFE教育担当副社長のジョン・ギル氏(John Gill)(J. D.,CFE)は言う。 民事対刑事(Civil vs. Criminal)
訴訟サポートの仕事を得る為の一般的な準備として、CFEは刑事訴訟と民事訴訟の違いを理解しなければなりません。刑事責任が証明された場合には、投獄あるいは更に悪い結果となりえるので、検察は疑いの余地の無い証明をしなければなりません。民事の申し立て(もし認められても、重大な刑罰にはならない)の場合には、原告は被告が無罪ではなく有罪である可能性が高いということを証明しなければならない。 証人尋問(Examination of witnesses)
直接尋問では、弁護士が証人を召喚、質問し、問題となっている事案に関する同弁護士の解釈を支持する証拠を提出する。 弁護士・依頼者間の秘匿特権(Attorney-client privilege)
弁護士がCFEを専門顧問として起用する場合、専門顧問の活動や弁護士との会話は、弁護士・依頼者間の秘匿特権によって守られる。つまり、対立する相手側を含めて誰も、その内容を見る法的権利を持たない。これとは対照的に、弁護士の活動と証言専門家との会話は、この特権を持たず、対立する相手側もこれを見ることができる。 |
Copyright 2016 ACFE JAPAN, All rights reserved. Copyright SEIKO EPSON CORPORATION 2016, All rights reserved. |