FRAUD MAGAZINE

ラテンアメリカにおける汚職と企業不正
LATIN AMERICAN CORRUPTION AND CORPORATE FRAUD
現地の文化的規範なるものを容認するな
DON’T ACCEPT SUPPOSED CULTURAL NORMS

ディエゴ・カノ (MBA、CFE) 著
By Diego Cano, MBA, CFE



 ラテンアメリカ文化圏においては、汚職は付き物であり、外資系企業が健全な事業活動を展開することはできないと考える人が多い。しかし、海外不正支払防止法(訳注:海外腐敗行為防止法とも訳される。Foreign Corrupt Practices Act、以下「FCPA」)の適用強化や同地域における司法の献身的な努力により、汚職その他の不正行為は抑止されつつある。

 2、3年前に多くの国際企業がアルゼンチンに事業展開をし始めたころ、米国のある有名企業がアルゼンチンの金属構造物メーカーを吸収合併した。同社の事業は利幅が厚く、高い収益が見込まれた。ただ1つ、これはラテンアメリカでなければ気にする必要はなかったであろうが、同メーカーの粗利益の約60%を公共事業が占めていた。

 両社は、アルゼンチン生まれで同メーカーのオーナーだった男を買収後の社長とすることで合意した。彼は、アルゼンチン政府関係者と豊富な人脈を築いていることで有名であり、且つ米国への留学経験もあったために、その米国企業の代表者たちからも信頼を勝ち得て、良好な関係を築いた。

 米国側は、彼を信頼しきっており、彼に全権を与え、買収後の新体制に合わせて管理や監査の規定を修正することもしなかった。買収合意では、四半期ごとに親会社本部から監査人が出向き、社長に対してのみ簡単な監査を実施すると決められていた。監査においては厳しい質問はなく、すべては整然と進められたようであった。会社は買収後も高い収益性を維持し、米国本社の幹部は満足であった。そのため、本社は同メーカーに対する統制を強化しなかったが、それが大きな間違いであった。

 同メーカーの収益が予期せぬ低迷を示した時、社長が300万ドル以上を横領し、うまみのある公共事業を受注できるよう政府高官に賄賂を支払っていたことが発覚した。そして、社長の不正行為により、米国籍である同社は、期せずしてFCPA違反を犯してしまったのである。



根深い問題? (DEEPLY ROOTED PROBLEM?)


 ラテンアメリカにおける汚職は風土病のように根深く、同地域の文化に特有の現象だという者もいる。少なくとも、そのような固定的なイメージを強めるような汚職事例には事欠かない。

 トランスペアレンシー・インターナショナルの汚職認識指数は、世界中で行うさまざまなサーベイを通じて収集した専門家の意見を集約したもので、163カ国の公共部門における汚職に対する専門家の認識を公表している。この指数インデックスでは、各国における汚職の度合いを0(最悪)から10(最良)のスケールでランクづけしている。

 ラテンアメリカ諸国の汚職認識レベルならびにその推移はほぼ類似している。チリの指数は例外的に良好なレベルにある。また、コロンビアの指数が2.6から4近くまで改善しているのも目につく。アルゼンチンの指数は2003年から2004年に最悪のレベルとなり、その後徐々に改善しているが、2000年から2001年に示した最良レベルは回復できていない。

 ラテンアメリカ地域の指数は1990年代の終わりに改善を示したが、その後再びアジア地域よりも悪いレベルへと落ち込んだ。アジアの指数が改善するとラテンアメリカが悪化するという傾向が繰り返されている。

 汚職はいつの世にも存在する文化的な汚点だと考える人が多いが、筆者は、根気強い努力を通じて減らすことができると考えたい。汚職を助長する慣習や信念は改めさせることができる。ここ数年間に発生している汚職の問題は、手に負えない難問から解決可能なものへと変わりつつある。

 汚職は、ラテンアメリカ各国の司法制度上だけでなく、地方政治制度においても喫緊の懸案となっている。過去、多くの国において汚職対策に特化した制度が作られた。メキシコの「透明性および情報アクセスに関する連邦法」やブラジルにおいて最近可決された汚職対策法などは好ましい傾向を示している。しかし、これらの法制化の動きは緒に就いたばかりであり、執行面はまだ十分とはいえない。

 最近OECDに加盟したチリでは、すべての企業に不正防止委員会の設置を義務づけることなどを含む、不正対策の新たな規則が制定された。ボリビアでは「マルセロ・キロガ・サンタ・クルス」法案を審議中である。同法案は、将来の汚職への徹底抗戦ならびに出所の怪しい財産を含む過去の疑惑の調査を目的としている。2007年に提出された同法案は、上院で暗礁に乗り上げたが、修正法案が可決される見込みである。

 国際組織がこれらの取組みを支援している例も多い。トランスペアレンシー・インターナショナルは中南米数カ国に12の事務所を設けており、不正対策計画の策定に対するコンサルティングを常に提供している。米州機構(Organization of American States, OAS)もラテンアメリカにおける不正と闘っている。「汚職対策分野における法的情報に関するアメリカンセンター(Interamericano de Informacion Juridica en Materia de Lucha Contra la Corrupcion)」は、汚職対策に関する国家計画、立法、論文、制度に有益な情報を提供している。



政府の強い影響力 (GOVERNMENTS’ STRONG INFLUENCE)


 ラテンアメリカ各国および地方政府は、為替政策、補助金そして企業へのインセンティブの規制当局として強い影響力をもっており、汚職の機会には事欠かない。

 国により程度の差はあるが、ラテンアメリカ経済は、他の地域よりも商品の国際価格の変動に影響されやすく、商品相場の大幅な変動に応じて政府の方針も大きく変わる。そのような方針変更は産業全体に影響を及ぼす可能性があり、汚職への強い動機を生じさせる。

 ラテンアメリカ各国の政府は犯罪を厳しく罰しないため、マネーロンダリングが横行しやすい。そのような状況は悪循環を招く。すなわち、マネーロンダリングで蓄積した資金で政府関係者を買収し、その結果さらに犯罪への取り締まりが甘くなってしまうのである。タックスヘイブン(租税回避地)に寛大な対応がなされ、それらに反対する国際協力協定が存在しないことが、悪循環を助長している。

 汚職をはびこらせる原因となり得るその他の状況には、経済のある部門(sector)から別の部門への所得移転を容認する政治的決定、税金・公共事業・サービス発注(service hiring)に関る法規制の取扱いおよび適用の甘さなどがある。

 ラテンアメリカにおける汚職について調べる際の留意点には、他にも以下のようなものがある。



行政の混乱 (Administrative Disorder)


 行政の非効率が、一種の「受動的汚職」として作用する可能性がある。つまり、行政側が保有する記録が限られていたり不完全であったりするために、統制の実施やキャッシュフローの追跡ができなくなってしまうのである。外資系企業は、業務上のやり取りに関して現地政府の公的記録に依存せずに、独自の記録を保有すべきである。



当局が有する裁量権 (Discretionary Power of Some Authorities)


 国内に所在する企業の経済問題に関して、官僚が無制限の決定権を有していることが多い。例えば、需要の高い商品・サービスの供給や価格を政府が決定し、その結果政府の独占状態をもたらす。

 1990年代、ラテンアメリカ経済は相次ぐ変革を経験した。その中には、国際通貨基金の拡大構造調整ファシリティの枠組み内で進められたものもある。

 1980年代にラテンアメリカが債務危機に見舞われた後、同地域の多くの国が巨額の負債を解消し、返済能力を取り戻す必要に迫られた。例えば、アルゼンチン政府は(鉄鋼、鉄道、天然ガスの製造販売、航空会社などの)国有企業の民営化や公共投資削減により、不履行となっていた債務を返済して、不正リスクをある程度低減した。

 その他の国の多くも、国有企業の民営化を進め、政府の裁量権を狭めた。しかし、公共事業は依然として国内総生産の重要な構成要素となっている。



納税義務に対する意識の低さ (Poor Development of a Tax Culture)


 ラテンアメリカの人々は税金を払うことを義務とは考えていない。他方、政府は税金や税法に対する厳しい統制を敷いていないため、企業経営者はステークホルダーの非倫理的な要求に従って利幅を広げる方法を見出す。筆者はラテンアメリカ諸国では誰も税金を払わないと言っているわけではないが、他の地域の政府(特に米国政府)は、税法をより厳格に執行している。

 ラテンアメリカ地域のほぼすべての国の政権では、大部分の階層に汚職が存在するが、その問題を文化的規範からは切り離し、犯罪・経済・政治活動にリンクさせて、正面から取り組むことは可能である。理論的検討を超えて、汚職を単なる文化的特性としてではなく、これらの活動の結果として生じるものと考えることにより、具体的な対策が見えてくる。



海外不正支払防止法(海外腐敗行為防止法)の新たな重視
(NEW EMPHASIS ON FCPA)



 ここ数年、米国政府は、米国に本社を置く企業に対するFCPAの適用を新たに強化している。2009年1月には、コントロール・カンパニーズ社の元国際工場販売担当ディレクターが、ブラジル政府関係者への不正支払い容疑に絡んだ3件のFCPA違反で有罪を認めた。同社はカリフォルニアに本社を置き、原子力、石油ガス、そして発電施設で使用する産業用バルブを製造販売している。

 ブラジルにおいて最近発生した別の事件では、ユタ州プロボ(Provo, Utah)にあるカプセル入りハーブおよびビタミンの製造販売業者ネイチャーズ・サンシャイン・プロダクツ社が、FCPA違反容疑で証券取引委員会(SEC)の告発を受け和解した。SECの訴えによれば、ネイチャーズ社のブラジルの子会社の元従業員が、2000年と2001年に複数の税関ブローカーに対して裏金を支払い、そのうちの一部が、無登録製品の輸入販売の便宜を得るためにブラジル政府の税関職員に支払われた疑いがもたれた。SECは、ネイチャーズ社のCEOのダグラス・ファッジョーリとCEOのクレイグ・ハフが、会計帳簿および内部統制手続に関する条項に違反したとしたうえで、両者と和解に達した。この事件は、FCPAに絡んでSECが「管理者(control person)」責任(訳注:1934年証券取引所法20条(a)項に基づく)を適用した初めてのケースとなった。

 長らく注目を集めたシーメンス社のケースでは、2008年12月に和解が成立し、(ドイツの規制当局との和解に加えて)同社には合計16億ドルの制裁金が課される結果となった。この額は、本件以前に科されたFCPA関連の罰金額の合計を大幅に上回った。これは、米国政府がFCPAの適用に関して管轄区域を拡大させていることを確認するもので、海外の規制当局による捜査および訴追が米国の規制当局による捜査の根拠となり得ることを明確に示している。

 シーメンス社およびその子会社3社(シーメンス・アルゼンチン、シーメンス・ベネズエラ、シーメンス・バングラデシュ)は、米国当局に対して合計8億ドルの罰金を支払うこととなった。(この他に、ドイツのミュンヘン検事総局に対して約5億6900万ドルの罰金支払いを命じる裁定が下った。シーメンスは、2007年10月に同検事総局に対して約2億8500万ドルをすでに支払っているため、罰金の合計額は16億ドルに上る。)(出所:www.ethicsworld.org)

 2008年12月16日付ニューヨークタイムズ紙のEric LichtblauおよびCarter Doughetrtyによる記事“Siemens to Pay $1.34 Billion in Fines”(正しくは$1.6 Billionとすべき)によると、シーメンスは、1990年代半ば以降、アルゼンチンの国民IDカードやベネズエラの公共交通機関をはじめとする公共プロジェクトを落札できるよう、外国高官に対して賄賂や不正なキックバックを支払ったとされている。

 米国は、本件に関して部分管轄(partial jurisdiction)を主張した。その理由はシーメンスが2001年にニューヨーク証券取引所に上場していた実績があるため、FCPAを含む米国の法規制の制約を受けるというものであった。

 オクラホマに本社を置く石油ガス掘削会社のヘルマリック・アンド・ペイン(H&P)は、アルゼンチンおよびベネズエラの政府高官への不適切な支払いに係る、FCPAの賄賂条項および会計帳簿条項違反容疑で和解に合意した。2003年から2008年にかけて、同社の子会社であるH&PアルゼンチンとH&Pベネズエラが、国をまたぐ現場間の掘削部品の通関に絡んで外国の税関当局に50回にわたり合計約18万5000ドルを不正に支払った。それらの支払いは、部品に対する関税等の増税を回避するためのもので、それにより同社は32万ドル以上を脱税した。(出典:www.ethicsworld.org)

 これらは、FCPA違反の代償を払った企業のほんの一例である。ラテンアメリカに子会社をもつすべての米国企業は以下を徹底しなければならない。

1. 米国とラテンアメリカ間のすべての取引、契約、支払は、すべて書面による承認を徹底する
2. 特に、外国政府が直接の顧客となる場合には、FCPAに係るリスク評価を行う
3. FCPAのコンプライアンス方針を策定する
4. 策定したコンプライアンス方針を全従業員に伝達し、FCPA遵守の重要性が確実に理解されるようにする
5.FCPA要件を内部統制手続に組み込む
6.監査に備えて、会計帳簿を正確かつ詳細に保持する



横領、社長への賄賂 (EMBEZZLING, BRIBING CORPORATION PRESIDENT)


 冒頭のケースに話を戻そう。米国本社は、買収したアルゼンチンの金属構造物メーカーの元オーナーを新社長に指名し、全幅の信頼を置いた。増収が続く限り、本社はこのアルゼンチン人社長を全く管理しなかった。

 しかし、その後予期せぬ減収が起こった。社長は、いくつかの契約を失ったと語ったが、その後も売上が減り続けたため、本社の経営陣はさらに詳しい説明を求めた。最終的に、本社から監査委員会のメンバーが現地に飛び、複数の従業員との面接を行った。

 面接に基づき、監査委員会は、減収は主要な公共工事契約を失ったために生じたと断定した。本社は、会社から独立した立場にある外部監査人を雇い、徹底的な調査の全権を委ねた。

 独立監査人は、アルゼンチンの子会社が政府との契約を獲得するために政府高官に賄賂を渡し、その「内通者」が異動となった際に契約が更新されなかったということを即座に突き止めた。社長があらゆる権限を有しており、ほとんどチェックをうけることなく会社の資産を譲渡することができる状況であったため、同社はこの犯罪に全く気づかなかった。

 従業員が不正を疑っても、管理者たちはよくあることだと考えて報告しなかった。彼らにとっては、吸収合併は単なる形式上の変化でしかなく、新社長はあたかも自分が引き続きオーナーであるかのように経営を続けた。内部監査人は新社長の配下にあり、彼の決定に疑問を投げかけることはなかった。社内には匿名の通報制度がなかったため、従業員の苦情は監査人に届かなかった。

 この事例から、特に経営者が内部統制の網をかいくぐることができる状況にある場合には、独立した監査サービスの利用が必要だということは明らかである。さらに、外部の調査専門家は不正に対するより広範な見識をもち、防止・発見に有効なツールにも精通している。ここ数年、国際的に展開するコンサルティング会社の多くが、フォレンジック・アカウンティングやコンピュータ・フォレンジックをはじめとする不正対策ツールを武器にラテンアメリカでの業務を拡大している。

 冒頭のケースでは、独立監査人が、社長による正当な理由のない出金や実態不明の会社への支払が、過去数カ月間で急増していた事実を摘発した。従業員は、これらの支出は社長が承認したと説明したが、承認方針が徹底されていなかったために、書面による承認記録は一切見つからなかった。その後、社長は贈賄を自白したが、実態不明の会社に支払われた資金の行き先については説明しなかった。

 調査の第二段階において、監査委員会は上記の不正は氷山のほんの一角であることを知った。不正な支払、架空の請求書、偽の領収書、そして「営業推進」のための支出以外にも、疑わしい事項が多数発覚した。会社側にはFCPA違反の認識はなかったが、迅速な対応により事態を収拾し、処罰は免れた。

 調査は、アルゼンチンの子会社の社長(同社の元オーナー)が、無制限に与えられた権限、内部統制の不備、そして同国で一般に受け入れられていた賄賂の慣行を悪用して、3百万ドル以上を横領したと結論づけた。独立監査人は最終的に、社長の妻が、不適切な支払の受け皿となっていた実態不明の会社を「所有」していたことを突き止めた。

 親会社は、フォレンジック監査報告書およびコンピュータ・フォレンジック技術を用いたEメールや電子文書のイメージなどを専門家による意見証拠(expert opinion evidence)とし、アルゼンチンの子会社の前社長を告訴した。訴訟は3年以上続いた。最終的に裁判官は財産の差し押さえを認め、親会社は不正による損失額の6割を回復した。



得られた教訓 (LESSONS LEARNED)


 この調査からは、いくつかの明らかな教訓を得ることができる。この手の汚職を防止するために、複雑な統制システムを導入したり、革新的な組織再編を行ったり、最新技術を用いたりする必要はない(これらの取組みはあらゆる会社に有益ではあるが)。遠隔地にある支店や子会社が安全に管理される体制を確保するためには、以下に示す重要な措置を講じるだけでよいのだ。

職務の分離:あらゆる権限をもった社長に職務が集中するという状況は、いかなる場合も危険である。社長、CEO、CFOなどの有能な幹部の存在は掛け替えのないものかもしれない。しかし、だからといって彼らに業務の管理、承認、記録に関する絶対的権限を与えてはならない(前述の事例では、社長は記録に関する責任は担っていなかったが、実際には彼が記録に関する規則を定めていた)。

統制システム:「壊れるまで直すな」という考えはここには当てはまらない。本社が、アルゼンチンの子会社を買収後に、機能システム(functional system)を一から再構築していれば、社長による犯罪を未然防止できたかもしれないし、あるいはもっと早く不正を発見できたかもしれない。

子会社が最優先に取り組むべきことは、自社のキャッシュフローの効率的な管理手法を考案することである。そのような手法には、承認、確認、照合に関する取引レベルの統制手続、および外部の監査人による継続的なモニタリングを含む。

FCPA:米国に本社を置く会社の役職員は、この法律を遵守し、どのような行為が違反となるのかを理解しなければならない。前述の事例においては、FCPA遵守のために、経理部門が政府との公共事業契約の内容を精査し、記録保持に関する条項を守るべきであった。

外部監査:外部監査人は、不正検査および/またはフォレンジック・アカウンティングのスキルを備え、不正の追及だけでなく防止・発見の手段を積極的に推奨できるようになければならない。ラテンアメリカ諸国に子会社を所有し、経営を現地の者に任せている米国企業にとっては、そのような監査人の存在が極めて重要である。そして、内部監査は可能な限り独立性を保ち、取締役会または本社の監査委員会に直接報告するようにすべきである。

契約点検および承認の方針:契約点検および承認手順に関する社内基準を策定しなければならない。基準書は、商業上の合意事項に関連して発生し得る問題を網羅し、職員全員に配布されなければならない。定期的な遵守状況の点検も実施すべきである。

FCPAの適用範囲および要件に関する継続的な従業員教育:ラテンアメリカで事業を展開する事業体は、FCPA違反を防止するために、従業員一人ひとりに対して、同法に関する継続的な訓練、ワークショップ、Eラーニングなどを行わなければならない。

 他にも推奨できることはたくさんあるが、重要なことは、ラテンアメリカに子会社を保有するか同地域での事業に参加している企業は、収益性にかかわらずそれらの事業体を入念に監視しなければならないということである。

 ラテンアメリカに進出する前に、同地域におけるビジネス文化に精通し、陥りやすい罠や蔓延する汚職の手口についての知識を得るべきである(もちろん、他の地域に進出する場合も同様である)。進出先の資産の管理を現地のマネージャーに任せきりにしてはならない。そのような企業は高い代償を払うことになる。



ディエゴ・カノ(MBE, CFE) は、ブエノスアイレスにあるFTIコンサルティング社のフォレンジックおよび訴訟コンサルティング部門のマネージング・ディレクターである。



コラム
米国海外不正支払防止法(海外腐敗行為防止法)が定める賄賂禁止条項
ANTI-BRIBERY PROVISIONS OF THE U.S. FOREIGN CORRUPTION PRACTICE ACT

FCPAは、商取引の獲得または維持のために外国公務員等(foreign government officials)に賄賂を贈る行為を違法とする。基本的な禁止事項に関して、同法への違反の認定に必要な要素が5つある。

A. 誰が(Who):FCPAは、あらゆる個人、会社、会社の役員・取締役・従業員または代理人、そして会社のために行動する株主に適用される可能性がある。個人または会社が、賄賂禁止条項(anti-bribery provisions)に違反するよう他者に命令、承認したり、他者を手助けしたりした場合、または同条項違反を企てた場合も罰せられる可能性がある。

 FCPAの下では、外国公務員等への不正支払に対する米国の裁判管轄権は、違反者が「発行体(issuer)」か「米国内の組織・個人(domestic concern)」か、外国籍の個人または企業かによって決まる。

 「発行体」とは米国において登録証券を発行し、SECへの定期報告の届出が義務づけられている企業をいう。「米国内の組織・個人」とは米国の市民権、国籍を有する個人もしくは居住者または米国に主たる営業拠点を置くか米国の州、領土、自治領において設立された、あらゆる株式会社(corporation, joint-stock company)、パートナーシップ、協会、事業信託(business trust)、非法人組織、個人事業体を指す。

 発行体も米国内の組織・個人も、土地管轄または国籍管轄によりFCPA違反に問われ得る。米国領内での行為に関しては、郵便その他の州際通商手段を用いて外国公務員等への不正な支払を促進する行為に及んだ発行体および米国内の組織・個人は、法的責任を問われる可能性がある。その他の州際通商手段には、電話、ファクシミリ送信、電信送金、州際または国際移動が含まれる。さらに、米国外で行われた同様の行為についても責任を問われ得る。したがって、不正な支払が米国外でのみ活動する従業員または代理人によって承認され、米国外の銀行の資金を用い、米国内に所在する職員の関与が全くなかったとしても、米国の企業または個人がFCPAに問われる場合がある。

 1998年以前は、外国企業(「発行体」の資格を有する企業を除く)および外国籍の個人はFCPAの対象外であった。1998年に同法が改正され、外国企業・個人に対する土地管轄権が行使されるようになった。現在では、外国企業・個人が直接または代理人を通じて米国領内において不正な支払を促進する行為に及んだ場合にはFCPAの適用を受ける。しかし、当該行為については、上述した米国郵便その他の州際通商手段の使用は要件とならない。

 最後に、米国企業の海外子会社および子会社の従業員または代理人たる米国市民・居住者(自身が“domestic concern”である者)が、問題行為を承認、指揮、管理した場合には、親会社が法的責任を問われ得る。

B. 不正な意図(Corrupt intent):(FCPAが適用されるためには)不正な支払を行うまたは承認する者に不正な意図があり、また、受領者に対して、支払者または他の者が不正に商取引を獲得できるよう公的地位を濫用させようとするものでなければならない。FCPAは、不正な支払がその目的を達成することを適用要件とはしていないことに留意すべきである。不正な支払の提供または約束が同法の条項に違反する可能性がある。FCPAは、以下の意図をもったあらゆる不正な支払を禁止している。

・外国公務員等(a foreign official)の公的な行為に影響を与えること
・外国公務員等の職務遂行における違法行為(作為または不作為)を誘引すること
・不適切な優遇を受けること
・外国公務員等が自らの影響力を不適切に行使するように仕向けること

C. 支払(Payment):FCPAは、金銭または価値ある物(anything of value)を供与すること、供与の申し出または約束をすること(もしくはそれらを承認すること)を禁止している。

D. 受領者(Recipient):禁止の対象となるのは、外国公務員等、外国の政党もしくは政党職員、または官職の候補者に対する不正な支払のみである。「外国公務員等」とは、外国政府、公的な国際組織、それらの組織の省庁、または公的な立場で活動するあらゆる者を意味する。「外国公務員等」の具体的な定義に関する具体的な質問(例えば、皇室の一員、立法機関の職員、公共事業体の職員などが「外国公務員等」に該当するのかどうかなど)については、司法省のFCPA に関する意見手続(Opinion Procedure)を参照するとよい。

 受領者の職位にかかわらず、あらゆる公務員等に対する支払がFCPAの適用対象となる。同法は、支払受領者が具体的にどのような職務を担っているかではなく、どのような目的で支払を供与、申し出、約束したかに着目する。また、賄賂禁止条項には「通常の行政行為を円滑化するための支払」の例外がある(以下を参照)。

E. 事業目的かどうかの検証(Business Purpose Test):FCPAは、会社が特定の個人・法人のために、もしくはその者と共に、事業の獲得・維持に資する支払をすること、またはその者に事業を誘導するために支払をすることを禁止している。司法省は「事業の獲得・維持」を単なる契約の授与または更新よりも幅広く解釈している。獲得または維持される事業の相手方は、外国政府もしくは外国政府関連機関に限定されない点に留意すべきである。



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