信託最新情報レポート
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受託者の信託報酬の考え方
(2016年6月)
1.民事信託での信託報酬の考えかた
 家族や同族法人を受託者にする民事信託で、受託者が信託報酬を授受することについては、アドバイスする専門家も関心が高いようです。
 家族信託の理念は無償です。年老いた親のアパートを管理するのに、報酬を前提にして契約するという発想がないのと同じです。委託者と受託者の濃い人間関係を重視する信託では、信じて託された者は無償で財産管理をするのが基本です。
 受託者が信託報酬を稼ぐことを目的に、信託財産に内部留保を蓄える、それは利益相反の問題になります。信託財産を受託者の固有財産に移動してはならないという自己取引を禁止(信託法31@一)する信託の理念に反するからです。しかし、委託者と受託者が合意すれば信託報酬を否定する理由はありません。そこで、条文では、商業信託の場合と、信託行為に定めがある場合に限って、信託報酬を認めています(信託法54)。
2 キーワードは不特定多数
 報酬を得る目的で営業として行う信託が信託業法の対象になりますが、ここでの営業とは、反復継続性(不特定多数)と収支相償性(利益獲得)をもって信託の引受けを行うことと理解されています。キーワードは不特定多数か否かです。反復継続性については不特定多数の委託者、受益者との取引が行われる可能性があるか否かで判断されるからです。
 したがって、特定少数の委託者から複数回の信託の引受けを行う場合には、反復継続性の問題は生じません。息子が複数のビルを所有する親から信託を引き受けるについて、複数回の信託を引き受けることになっても問題はないわけです。
 ですので、身内で信託報酬を受け取っても、それで信託業法違反が問われることはありません。
 例えば、不動産管理について、不特定多数から受託すれば宅建業法が登場しますが、身内間の受託なら、実務では問題なく管理手数料が授受されています。同族が経営する不動産管理会社の設立を提案し、不動産管理料を授受するについて、宅建業法を心配する税理士はいないはずです。
 逆に、税理士や司法書士が顧客から受託者を引き受けることは反復継続性に該当します。1回限りの信託の引き受けについて、この顧客限りだから問題ないはずだと言えるのかというとそれは違うのです。不動業管理者が、受託者として顧客の賃貸物件の信託譲渡を受けたら、たとえ1回でも、反復継続性に反します。これらは将来的に営業目的で複数回の信託が行われる可能性があるため、最初の信託の引き受けが反復継続制違反に該当することになります。
3 税理士が信託への参加を期待されたら
 では、税理士が、委託者となる財産の所有者から受託者への就任を希望されたらどうすればよいでしょうか。委託者から信託の運用に参加して欲しいと期待されることがあるでしょう。その場合は、一般社団法人を設立して、受託者とし、家族とともに税理士が理事になればよいわけです。
 さらに、委託者となる資産家ごとに、一般社団法人を設立しておけば、不特定多数の信託を引き受けることにはなりません。
 資産家には、一家に一台の一般社団法人の時代なのです。
  著 者


白井税理士事務所 所長・税理士 白井 一馬
石川公認会計士事務所、税理士法人ゆびすいを経て独立。「顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60」「一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係」「一般社団法人・信託活用ハンドブック」ほか著書多数。
ホームページ→http://www7b.biglobe.ne.jp/~shirai-taxtrust/