無視できない受託者のリスク
(2016年2月)
1.受託者は無限責任を負う 受託者は、信託財産の所有者となるわけですから、信託の事務にともない発生する債務はすべて負担することになります。 信託財産がアパートである場合、預り保証金や借入金などの信託設定前から存在した信託財産に係る債務、固定資産税や修繕費などの経費などは、信託財産から支払いますが、仮に信託財産を超える支出が必要になった場合は受託者の固有財産で負担する必要があります。債権者は受託者の固有財産に対しても強制執行が可能なのです。 受託者には第三者に対する責任があります。損失を委託者や受益者のせいにできないのが信託の当然の前提です。 2.最大のリスクは損害賠償責任
この場合の受託者の事務としては、固定資産税の納税義務、修繕による費用の支払義務、入居者の募集業務も含まれます。賃料不払いの訴訟も担当可能です。 判断力が衰えた元の所有者(委託者)のために受託者の裁量で財産が管理できるのが、信託の魅力であり利用価値ですが、一方で、これらは信託財産が不足しても固有財産で負担する必要があるため、受託者の大きなリスクにもなります。 リスクを回避するために、債務者と個別に合意することは有効です。また、受益者に対する信託財産から生じる利益や元本の引き渡し義務は信託財産を限度とします(信託法21)。 ただし、事前に避けることができない不動産賃貸業最大のリスクは、階段の崩落や震災による建物の倒壊などによる、建物所有者としての入居者からの損害賠償リスクです。これらは、事前に合意することは不可能ですので、万がいち、このような事態が発生すると、信託財産を超える部分は、受託者がすべて固有財産で支払う必要があります。 火災保険や借家人賠償責任保険の引き継ぎは何となく後回しにしがちですが、これを怠ってはいけないのは言うまでもありません。 3.リスクを回避する方法 そこで限定責任信託の利用可能性が検討できます。 限定責任信託とは、責任を信託財産に限定する信託です。この場合、限定責任信託の名称を使用し、登記するなどの特別の取り扱いがあります。 資産の流動化や証券化ビジネスへの利用が予定されている限定責任信託ですが、家族信託でも予想外のリスクに備えるために利用できる可能性があります。 同様に、想定できない責任を防ぐために、受託者を一般社団法人にすることを検討すべきです。一般社団法人の理事は、悪意または重大な過失がない限りは第三者には責任を負いません(一般社団法117)。 家族全員で財産管理をするために、信託の受託者として適任なのが一般社団法人ですが、このような想定外のリスク回避の意味からも有効です。 著 者
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