信託と遺留分
(2016年1月)
1.信託と遺留分 遺留分減殺請求は、被相続人が自由に処分できる財産と、残された相続人の生活の保障を調整する役割があります。民法とはまったく異なる法律体系である信託を民法の範疇で取り扱うことには法的に解決できない困難が伴います。遺留分もそのような事例の1つです。 たとえば、父親が、賃貸アパートについて、信託期間を10年とする信託を遺言によって設定したとします。受益者を長男としますが、長男が途中で死亡した場合、残存年数については、長男の子(孫)が家賃と元本を受け取る内容だとします。このような場合、遺留分を侵害された次男が、減殺請求できる相手は長男だけなのか、長男の子も相手方として減殺請求が出来るのかという問題があります。 これについて現時点での結論は不明です。 2.受益者連続型信託で考えてみる もう少しシンプルに受益者連続型信託で考えてみましょう。 遺留分を侵害された夫の子は誰を相手方にできるのでしょうか。 まず、1次相続(夫死亡時)については、相手方は後妻であり、後妻の遺留分の対象は10億円でしょう。残余金をすぐには貰えず金額も確定しない先妻の子は相手方にならないと思われます。 次に2次相続(後妻死亡時)です。 後妻に実の子がいた場合、先妻の子に減殺請求は可能でしょうか。こちらは難しいと考えます。そもそも後妻に受益権の処分権はありません。夫によって受益権の行方は決定されているからです。つまり、後妻は遺言で好きに財産の行方を決定できません。 また、信託法上は、先妻の子は後妻から受益権を承継するわけではありません。夫からの承継と位置付けられます。 2次相続では、受益権は遺留分の対象にはならないものと考えられますが、やはり確定した実務はありません。 3.実務での蓄積を待つ必要がある 最近では、りそな銀行の「マイトラスト 未来安心図」のように2代先まで指定できる受益者連続信託が可能な商品も登場しています。 全財産を信託するのではなく、仮に相続人が浪費家である場合に自宅を受益者連続型信託としておく、あるいは自社の株式のみを受益者連続型信託としておくなどの利用価値が考えられますが、遺留分の取り扱は、今後の実務と判例を待つ必要があります。 著 者
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