受託者の判断で信託財産の生前贈与は実行できるのか
(2015年8月)
1.受託者の判断で生前贈与はできるか 信託設定後、受託者の判断のみで、信託財産の生前贈与を可能とする、そのような信託が実行できれば大変便利です。 たとえば、父(委託者)が所有するアパートを長男(受託者)に預けます。賃料は父(受益者)が受け取るので自益信託です。 長男に受益者の変更権(信託法89)を与えれば、孫を新たな受益者に指定して賃料を給付することもできますし、受益権の割合を変更すれば、孫は事実上のアパートの共有者になることができます。 そうすると、長男は自分の判断で、信託財産を大盤振る舞いすることが可能です。自分自身、自分の妻、自分の息子に好きなだけ贈与できます。 しかし、相続税法では、受益者でない者であっても、信託財産の給付を受け、かつ、信託変更権限を持つものは、「みなし受益者」として贈与税の課税の対象になります。したがって、長男が自分自身を残余財産の受取人にしたり、実質的に信託財産の給付を受けたりした場合は、贈与税が課されます。 2.自由に生前贈与するのはリスク では、「長男は決して利益の給付を受けてはならない」との信託内容にしておけばよいのでしょうか。 いくつかのケースを想定してみます。
このようなプチ慈善を実行するための信託なら贈与税の問題は生じないでしょう。
こちらは、父のカネを使って長男が自らの扶養義務を履行するわけです。事実上は、長男が利益を享受していることになりますので、みなし受益者として長男に贈与税が課税される可能性があります。
これはもちろん問題です。しかし、これを課税庁はどのように否認するか。それはまだわかりません。いや、それこそが信託であって、「委託者兼受益者の生活に支障のない限り、相続税対策の為に信託財産を処分する事が出来る」という定めこそが、信託の真髄ではないかと考えることもできます。生前贈与を父が希望していたのであれば、その希望を受託者が実現することはまさに信託の利用価値です。 3.具体的な生前贈与事例を考えてみれば 課税リスクを避けるための信託を考えてみます。 まず、受託者の判断で生前贈与を可能とするのであれば、受益者の生活に影響を与えない限度において、受益者の配偶者及び直系の子や孫に対し、生前贈与を実行できるように定めておくなど受贈者を限定しておくとよいでしょう。 さらに、「贈与額は年110万円を限度する」、「大学への入学、婚姻、入院などの事実が生じた場合に、扶養義務の履行と認められる限度で資金を援助することができる」、「居宅を購入する必要が生じた場合に、税務上の非課税枠の範囲内において資金を援助することができる」、など贈与の原因を絞っておくことが有効でしょう。 著 者
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