信託最新情報レポート
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結婚・子育て資金一括贈与非課税信託の存在価値
(2015年4月)

1.教育資金一括贈与信託とは異なる制度

 ご存じの通り、平成27年度税制改正により、直系尊属からの結婚・子育て資金一括贈与の非課税制度が創設されました。

 今回の結婚・子育て資金一括贈与が、教育資金の場合と大きく異なる点が、贈与者死亡時の残金が相続税の対象になることです。教育資金一括贈与信託でしたら、贈与した祖母が死亡しても、受益者である孫にとって、贈与資金が相続税の対象になることはありません。そこで、高齢の祖父母や曾祖父母にとっては、確実な相続税対策として利用できる制度です。

 つまり、受贈者一人につき、1,500万円が非課税ですから、90歳の高齢の資産家が、仮に15人の孫、曾孫に対し、教育資金一括贈与を実行すれば2億2,500万円の相続財産圧縮が可能なわけです。幼い孫や曾孫でしたら、通常は、30歳までには資金を消費することが見込まれますし、仮に残金に贈与税が課税されても相続税よりも低額になる可能性が高いでしょう。

 結婚・子育て資金一括贈与は、贈与者の相続時点の残高が相続財産に加算されるので、このような節税には利用できません。なお、孫等に2割加算の適用はありません。


2.信託の個性を活かした財産管理手法としての利用

 信託を利用した財産移転の大きな特徴は、税制面よりも、特定の者に確実に財産を承継できることです。生命保険を利用する場合よりも安定的な移転が可能です。遺言や遺産分割協議によることなく遺産分けができる制度は魅力的です。

 また、信託資金の目的外利用はできないため、本人や、本人の親に浪費癖があるなどの場合でも、孫の教育等の目的を達成することができます。さらにその都度贈与に比べても、受贈者である孫等の保護者や贈与者の破産から信託資金を守る倒産隔離機能という信託の特徴を利用した財産管理手法としても魅力的です。

 家族信託では、信頼できる受託者の確保が一番の課題ですが、信託銀行ならその点でも安心です。このあたりは、今回の結婚・子育て資金一括贈与も同様です。

 ただし、非課税枠が受贈者一人につき1,000万円と少額であるため、ある程度の規模の資産家にとっては、それほど魅力がある制度といえないことも否定できません。また、遺留分を侵害する贈与は相続時の減殺請求リスクがあります。


3.「 親孝行」ではなく「子孝行」の時代

 結婚・子育て資金一括贈与の課税関係は、要するに、実費相当額を贈与税非課税の子育て資金として、その都度贈与し、遺言で残金を渡すのと何ら課税関係はかわりません。

 その点では、1.でも触れたように課税上の節税効果という観点からの魅力はありません。

 政府による若い世代への政策アピールとしての優遇制度というのが、この制度の本当の趣旨でしょう。

 近年の税制改正で、結婚・子育て資金だけでなく、相続時精算課税、住宅取得資金贈与、教育資金一括贈与、ジュニア版NISAなど、子や孫への生前贈与を期待する優遇措置の品揃えがてんこ盛りです。かつての「親孝行」という言葉にかわり、「子孝行」、「孫孝行」という時代が来たのでしょうか。


  著 者


白井税理士事務所 所長・税理士 白井 一馬
石川公認会計士事務所、税理士法人ゆびすいを経て独立。「顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60」「一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係」「一般社団法人・信託活用ハンドブック」ほか著書多数。
ホームページ→http://www7b.biglobe.ne.jp/~shirai-taxtrust/