信託はどうやって成立するのか
(2015年3月)
1.契約で信託をスタート 信託を開始するには、3つの方法が考えられます。
このような信託を開始するための方法を見ていきましょう。 もっとも一般的なのが、信託契約によって信託を開始する方法です(信託法3一)。信託契約は、財産の持ち主である委託者(父)が、信じて託す受託者(長男)との間で締結します。家賃を受け取る受益者(孫)は、契約当事者ではありません。孫は当然に受益者となるのであり(信託法88)、また受益者になるのを断るのも自由です。ただし、実務では受益者も交えて3者で信託の内容が決定されるでしょう。 信託契約では、信託の目的、信託財産の管理方法、受益者に関する事項、信託はどのように終了するのか、信託が終了したときの残余財産の帰属者、などを記載することになります。信託期間が満了する前に孫が亡くなってしまうことも考えられますから、受益者に関する事項として、たとえば、「孫が信託期間中に死亡した場合には、孫の相続人とし、相続人がいない場合は委託者」などと決めておくことになります。 信託では、受託者である長男が管理するアパートは、長男の固有財産とは分別して管理しなければなりません。そのため、信託財産が不動産であれば、信託の登記を行います。アパートの預金も信託財産として管理する場合は、受託者名義の信託口座を作成することになります。 2.遺言で信託をスタート 二つ目として、遺言で信託をスタートすることも認められます(信託法3二)。内容は、契約による場合と同じですが、これを遺言に記載しておくわけです。ただし、遺言による場合は、受託者が承諾してくれるとは限りません。そこで実務では、生前に受託者の承諾を得ておくことが重要ですが、それでも就任を断ることは自由です。そのため、家族信託の実務では遺言はほとんど採用されません。特定公益信託など公益性の高いものに限られるでしょう。 そこで、父が生前に、管理処分を託す受託者との間で、父自身が受益者となる自益信託を契約でスタートしておき、父の死後、孫を第二受益者とする遺言代用信託によることが一般的です。 3.公正証書で信託をスタート 信託法では、自己信託が認められます(信託法3三)。たとえば、孫のために、父が自分に信託する、すなわち、アパートを父の固有財産とは切り離して、孫のためだけに管理処分するという形態です。この場合、父は契約する他人(受託者)が存在しないため、信託の存在を明らかにするために公正証書により明確にしておく必要があります。 以上が、信託を開始するための3つの方法です。信託契約や登記は誰にでも簡単にできますが、委託者死亡後の将来の信託財産の行方や信託終了による出口、その際の相続税等の課税関係まで考慮するために税理士の存在は不可欠と言えるでしょう。 著 者
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