信託最新情報レポート
一覧はこちら

撤回不能信託で財産を確実に承継する
(2015年2月)

 今回は、遺言では為し得ない財産の承継手法をご紹介しましょう。子が確実に親から財産を取得できるように信託を利用する手法です。

 たとえば、家族会議の結果、自分が自宅を相続するという約束で父母と同居するのですが、家族が約束を守ってくれるのかは不安です。とくに相続後、不仲の兄が何を主張しだすか予測できないというような場合です。

 まず考えられるのは自宅を生前贈与してもらうことですが、当然贈与税の負担が生じます。となると相続時精算課税を利用しての贈与ですが、贈与財産が相続時までに値下がりすれば相続税負担が増えてしまいます。

 父親に遺言を書いてもらうことも考えられます。しかし、遺言はいつでも書換え可能です(民法1022条)。父親の判断能力が衰え始めたときに、不仲の兄が遺言の書き換えをアドバイスするようなことがあれば、無効な遺言として相続時の紛争の原因になりかねません。さらに遺言しても、財産の処分権限は失われませんので(民法1023条)、父親は自由に自宅を処分できます。また、死因贈与という手法もありますが、遺贈の規定に従うので、何時でも撤回可能です(民法554条)。

 そこで利用するのが信託です。

 当初は父親自身が委託者かつ受益者となる自益信託ですが、父親の死亡後は子(自分)が第2受益者となる信託とします。信託財産の実質的な所有者である受益者になるということは、自宅を遺言で取得したのとかわりません。このような信託を遺言代用信託と呼びます。


 信託なら信頼できる受託者(姉)に自宅の名義者になってもらうメリットがあります。しかし信託の利点はこれだけではありません。信託行為(契約)に、受益者の変更を禁止する別段の定めをおくのです(信託法90条)。遺言を撤回不能とすることは不可能です。それが民法の常識です。しかし、信託(イギリス法)は、民法(ナポレオン法典)の常識を超えることができるのです。

 ただし判例も前例もないので、相続人の公平を維持する信託にしてリスクを回避する必要があります。全財産を信託で承継するのでなく、今回のように自宅のみ、あるいは会社の後継者への自社株の承継のみを撤回不能の信託とするわけです。

 さらに信託の特徴である柔軟性を生かすことができます。原則は撤回不能とするが、親の面倒を看なくなった場合など、特定の条件の場合に撤回できるという定めも有効です。

 サラリーマンを辞めて同族会社の後継者となる子供が、自社株は確実に取得したい。このように特定の財産を確実に承継するために利用できるのが信託です。

 両親は本当に財産を譲ってくれるのか。今はよくてもいずれ判断能力がなくなれば約束が果たされないかもしれません。信託を利用した撤回不能遺言が可能であれば、両親リスクが無くなります。


  著 者


白井税理士事務所 所長・税理士 白井 一馬
石川公認会計士事務所、税理士法人ゆびすいを経て独立。「顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60」「一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係」「一般社団法人・信託活用ハンドブック」ほか著書多数。
ホームページ→http://www7b.biglobe.ne.jp/~shirai-taxtrust/