不動産鑑定士・税理士 沖田豊明の広大地評価レポート
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擁壁等の整備されていない崖地を含む土地
2012年10月

いつも当レポートをご愛読頂き、ありがとうございます。
今回は、擁壁等の整備されていない崖地を含む土地についてご紹介したいと思います。


 (1)崖地を含む土地の評価においては、過去に経験された先生方もいらっしゃるかと思います。擁壁の設けられていない崖地を含む土地については、建築基準法第19条第4項で「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」と定めており、その崖が下り崖地であれ、上り崖地であれ、自然状態の崖に擁壁を設けること、擁壁を設けない場合には勾配を変更すること、あるいは崖と住宅との間に一定の間隔を保つことなどを要求しています。そして、この規制は、その崖の所有者と建物の所有者とが同一人であっても別人であっても適用されるとされています。また、仮に崖が既に擁壁で覆われていたとしても、当該擁壁が合法か否かが重要なポイントです。つまり、建築基準法の検査済証が交付されているかどうか、合法でなければつくりかえる必要性も生じてきます。一見頑丈そうかどうかは関係ありません。また、がけ地については地域の条例等で建物を建てるときに条件が付けられていることがあるので、役所調査を行う際に、崖についての規制も聞いておくことが重要です。例えば、横浜市においては、建築基準条例3条において以下のように定めています。

条例(抜粋)
「高さ3メートルを超える崖(一体性を有する1個の傾斜地で、その主要部分の勾配が30度をこえるものをいう。)の下端からの水平距離が、崖の高さの2倍以内の位置に建築物を建築し、又は建築物の敷地を造成する場合においては、崖の形状若しくは土質又は建築物の規模、構造、配置若しくは用途に応じて、安全上支障がない位置に、規則で定める規模及び構造を有する擁壁又は防土堤等を設けなければならない」
※一定の緩和規定あり


 (2)このような崖を含んだ土地について財産基本通達では、宅地については右記の表を掲げ、「がけ地」の宅地に占める割合ごとに、その「がけ地」の斜面の方位が、南、東、西、北のいずれかであるかによる補正率(格差率)を定め、「がけ地」を含んでいないとした評価額にその補正率を乗じて求めるように規定しています。また、宅地以外の土地については、宅地としての評価額から造成費を控除することによって求めるように規定しています。しかし、不動産とはそもそも個別性の強い資産ですから、崖地もこれにもれず、画一的な評価を適用すること自体に合理性が認められない場合があり、このような場合には、鑑定評価を活用すると評価額が下がる場合があります。 【がけ地補正率表】


がけ地地積
総 地 積
 がけ地の方向 西
0.10以上 0.96 0.95 0.94 0.93
0.20以上 0.92 0.91 0.90 0.88
0.30以上 0.88 0.87 0.86 0.83
0.40以上 0.85 0.84 0.82 0.78
0.50以上 0.82 0.81 0.78 0.73
0.60以上 0.79 0.77 0.74 0.68
0.70以上 0.76 0.74 0.70 0.63
0.80以上 0.73 0.70 0.66 0.58
0.90以上 0.70 0.65 0.60 0.53


 傾斜地の宅地造成費
傾斜度 金額
 3度超  5度以下 8,900円/平方メートル
 5度超 10度以下 15,400円/平方メートル
10度超 15度以下 21,300円/平方メートル
15度超 20度以下 33,500円/平方メートル
 (3)例えば、崖の面積・傾斜・高さ等によって擁壁等の設置に多額の造成費等がかかると見込まれる場合であっても、簡便的な路線価方式による評価を前提とした場合、採用する造成費は、国税庁が定める宅地造成費金額表(右記表は東京国税局の例)のうち、市街地農地等の評価に係る宅地造成費の傾斜地の宅地造成費となります。

 この造成費は、あくまでも相続税等の課税の資料として作成されたものであり、個々の土地の実態を反映せず一律的に決められています。特に、崖の傾斜が20度以上ある崖地においても、表中で一番高い33,300円/平方メートルの造成費を採用せざるを得ないこととなり、限界のあることを認識した上でこの表を活用する必要があるでしょう。

 その点、鑑定における時価評価においては、実際に必要とされる造成費を見積もって控除することができますので、上記表における造成費が妥当ではないと考えられる場合には鑑定評価を活用したほうが有利になる場合があり、当事務所においても、専門の業者に造成費を見積もってもらい崖地を含む土地を評価し、原則評価よりも大幅な減額になったケースもございます。


 (4)今回の崖地を含む土地を始め、不動産、特に土地は個別性の強い資産であり、財産評価基本通達により画一的に評価するのみではその個別性を必ずしも反映しきれない場合があります。財産評価基本通達による評価の基礎となる路線価は評価上の安全性を考慮して低めに定められていますが、例外的なものについては、その適正な時価が財産評価基本通達に基づく評価額を下回ってしまうことがあるのです。


 先生方が過去に申告された案件で、原則的な路線価評価等による評価額が高いと感じたことはなかったでしょうか。例えば、本件のように崖地を含む又は面している土地のほか、著しい高低差のある土地で開発に際して多額の造成費がかかる場合、面大の戸建分譲素地で旗竿状の分割が可能なため広大地には該当しないものの、分割後の画地が不整形になること等による市場性減価が大きい場合等、財産評価基本通達による画一的な基準では反映しきれない減価要因が存する不動産については、鑑定評価を活用することにより評価額を下げることが可能となる場合があります。


 当事務所では、鑑定評価だけでなく、税務上の取扱いも含めてアドバイスしておりますので、判断に迷われることがあれば、お気軽にご相談ください。






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