不動産鑑定士・税理士 沖田豊明の広大地評価レポート
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国税不服審判所から発表された裁決事例
2012年2月

いつも当レポートをご愛読頂き、ありがとうございます。
今回は、国税不服審判所から発表された平成23年4月21日の裁決事例(更正をすべき理由がない旨の通知処分取消を求めた事案)を紹介します。


 「評価対象地は、既に開発行為を了した共同住宅の敷地として有効に利用されていることから、「広大地」には当たらないとした事例」

相続時点 平成19年12月
土地面積 742.98平方メートル
建物 RC造陸屋根4階建共同住宅
 (16戸・平成14年1月築)
延床面積 965.7平方メートル
 (実効容積率約130%)
用途地域 第2種住居地域
建蔽/容積60%/200%
最寄駅 2,000メートル

 ≪ポイント≫この事例は、既に開発行為を了した共同住宅用地について、その共同住宅(建物)の状況から近い将来の開発行為を要しないこと及びその存する地域の標準的使用形態の一つに適合していることから、当該共同住宅用地は有効利用されているとして、「広大地」には当たらないと判断したものである。

 《要旨》 請求人らは、相続により取得した土地(本件土地)は、賃貸マンションの敷地となっているところ、地価公示法によれば賃貸マンションを建築することが地域の標準的使用とはなり得ないこと及び本件土地が所在する地域の近傍地域が一群の戸建住宅分譲用地へと移行しつつあることからすると、本件土地は「現に宅地として有効利用されている建築物等の敷地」には該当しないなどと主張して、本件土地は、財産評価基本通達24−4《広大地の評価》(広大地通達)に定める広大地に 該当する旨主張する。しかしながら、広大地通達の趣旨に照らすと、評価対象宅地につき、評価時点における当該宅地の属する地域の標準的使用に照らして、当該宅地を分割することなく一体として使用することが最有効使用であると認められる場合には、広大地に該当しないと解するのが相当であり、既に開発行為を了しているマンションなどの敷地や現に宅地として有効利用されている建築物の敷地用地などについては、特段の事情がない限り、広大地には該当しないものと解せられるところ、本件土地は、既に開発行為を了した共同住宅の敷地として使用されており、本件土地について、近い将来において新たな開発行為を行うべき事情も認められない上、本件土地の存する地域においては、戸建住宅用地、共同住宅用地、法人等事業用地、倉庫・車庫・工場用地の各用途のいずれもが標準的な使用形態であると認められることからすると、本件土地は、既に開発行為を了した共同住宅の敷地として、その周辺地域の標準的な使用状況に照らして有効に利用されているものと認められる。したがって、本件土地は、広大地には該当しないものと認めるのが相当である。

 以上のように原処分庁は、当該土地は賃貸共同住宅の敷地は標準的使用に合致し、有効利用されているため、広大地の規定の適用除外であると主張しています。

 ここでおさらいです。平成16年6月29日付の「資産評価企画官情報第2号」では、広大地に該当しない例示として「現に宅地として有効利用されている建築物等の敷地」等が掲げられていました。このため、賃貸マンションの敷地は広大地に該当しないという認識が一般的となっていましたが、平成17年6月17日付の「資産評価企画官情報第1 号」では、その判断基準として、建物の有無にかかわらず、「その地域の土地の標準的使用といえるかどうかで判断する」と補足されました。

 通常、当該裁決事例のように駅から約2,000m離れた位置に存する賃貸共同住宅に然したる収益性があるとは考え難いため、本件の賃貸マンションについても、既に所有していた土地の有効活用による賃貸共同住宅である可能性が高いと言えます。実際に、投資会社の物件のように、第三者が土地を購入した上で賃貸共同住宅経営をして採算が成り立つのは、ごく一部の都心のみであり、それ以外の地域では、賃貸共同住宅を建設することを前提とした価格が地域の標準価格を形成するこ とはなく、賃貸共同住宅は標準的使用とは成り得えないということは明らかであるはずです。それにもかかわらず、未だに「標準的使用といえるかどうかで判断する」という意味が正しく理解されず、賃貸マンションが周辺にある=「標準的使用」、かつ賃貸マンションが建っている=「有効利用されている」という誤った解釈が正しいものとして平然と認められていることには、不動産の専門家として違和感を覚えざるをえません。

 とはいえ、「賃貸マンションとしての利用は被相続人の個人的事情によるもので、対象地の標準的使用は一般住宅地であり、典型的な需要者は、近年の事例から実証的に考えて、戸建分譲業者になる」旨、さらに「戸建分譲地として開発した場合には開発道路を設置して分割することが合理的・経済的である」旨等の意見を記した不動産調査報告書を作成して所轄税務署に提出することで、その説得力と担当者の理解力次第では、広大地評価を認められるケースは多々あります。


 当該裁決事例の場合は、間口奥行等の関係から、標準的画地規模についての見解の相違によっては、開発道路等の負担を検討する必要性に迫られる可能性があることも推定されます。このように、もし判断に迷われるような案件がございましたら、お気軽にご相談ください。






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