不動産鑑定士・税理士 沖田豊明の広大地評価レポート
レポート一覧はこちら

市街地山林の純山林評価について
2010年4月

 今回は、市街地山林について、節税効果の大きい「純山林評価」が可能なケースをご紹介したいと思います。


 市街地山林は、相続税の財産評価上では、原則、近隣の宅地の価額を基に宅地造成費に相当する金額を控除して評価額を算出する「宅地比準方式」により評価します。

 しかし、不動産とはそもそも個別性の強い資産ですから、市街地山林もこれにもれず、高低差等の関係で宅地化が困難であるもののほか、いわゆる『開発残地』のように、急傾斜地等で宅地化が見込めず、開発行為そのものが物理的に不可能なものも存在し、宅地比準方式を適用すること自体に合理性が認められない場合、すなわち「宅地への転用が見込めないと認められる場合」があります。

 このような場合の山林の価額は、近隣の純山林の価額に比準して評価することとなります。


宅地化が見込めない市街地山林の判定

 宅地への転用が見込めない市街地山林か否かは、(1)経済合理性から判断する場合(2)形状、高低差等の物理的な観点から判断する場合とが考えられますが、今回は(1)経済合理性から判断する場合についてご紹介いたします。

(1)経済合理性から判断する場合

 原則、宅地比準方式により評価した市街地山林の価額(近隣の宅地の路線価に基づく価額を基に税務上の宅地造成費に相当する金額を控除して求めた評価額)が純山林としての価額を下回る場合には、経済合理性の観点から宅地への転用が見込めない市街地山林に該当すると考えられます。

表2 傾斜地の宅地造成費
傾 斜 度 金  額
 3度超 5度以下  8,900円/平方メートル
 5度超10度以下 15,200円/平方メートル
10度超15度以下 21,100円/平方メートル
15度超20度以下 33,300円/平方メートル
 ただしこの場合、その判断に当たって採用する造成費は、国税庁が定める宅地造成費金額表(左記表2は東京国税局の例)のうち、市街地農地等の評価に係る宅地造成費の傾斜地の宅地造成費となります。

 この造成費は、土地の傾斜度によって一律に割り切って定められたものですが、そもそも宅地開発に当たって経済合理性があるかどうかの議論の余地があるのは、上記表で定められた範囲以上である傾斜度20度以上のものが多いのです。しかし、原則的な相続税の財産評価上では、そのような場合であっても、表中で一番高い33,300円/平方メートルの造成費を採用せざるを得ないこととなります。よって、実際には、宅地比準方式により評価した市街地山林の価額(近隣の宅地の価額を基に宅地造成費に相当する金額を控除して求めた評価額)が純山林としての価額を下回ることは、特に、地価が高い首都圏においては、あまり見られません。
 従って、国税庁が定める判断基準によると、純山林評価に該当しない市街地山林もあります。


 しかしながら、当事務所においては、不動産鑑定士としての立場から、「このような土地については鑑定評価上の『宅地見込地』としての評価手法を準用し、その結果、合理性がないと判断される場合には、純山林評価をすべきである」と考えています。現実に、当事務所ではこのような考えに基づき、財産評価の規定に基づく原則評価であれば、近隣の宅地の価額を基に宅地造成費に相当する金額を控除した評価額が純山林としての価額を下回らない場合であっても、宅地見込地としての評価手法を準用し、経済合理性が認められないと判断されるものについては、純山林評価を行い、税務署から認められているケースが多数あります。
 具体的には、以下のように判断を行います。

A.開発想定を行う
 まず、評価対象の形状、高低差、接道状況等を考慮し、宅地化するための開発想定を行います。ここで注意しなければならないのは、このような土地については、高低差等の影響もあって、接道状況が著しく悪いものが多いですから、隣地買収が必要な場合には、買収の現実性等を考慮し、それを前提に開発想定を行います。

B.分譲収入の査定
 上記開発想定を前提に、区画割り後の各画地の形状、規模、方位、接道状況等を考慮し、宅地としての評価を行います。それらを合算して、分譲収入の総額を査定します。
 なお、この場合の分譲収入は路線価ベースではなく、あくまで時価ベースとなります。

C.造成費の査定
 想定した開発計画に基づき、実際に必要とされる造成費を見積もります。大規模なものについては、専門業者に見積もってもらうこともあります。純山林評価を行うべきかどうか判断が分かれるような土地は高低差、傾斜が著しいものや急傾斜地崩壊危険区域内のものなどもあり、擁壁の設置が不可欠なものもありますから、その金額は膨大になることもあります。しかしながら、本来その不動産を実際に宅地造成する場合には、それだけの金額がかかるわけですから、前頁の宅地造成費金額表に基づくよりも現実的であると言えます。

D.評価額の査定
 以上のように求められた分譲収入から造成費のほか、さらに、標準的と認められる販売費及び一般管理費 並びに業者利益等を控除し、評価額に辿り着きます。この価額がマイナス又は、純山林価額を下回る場合には、純山林評価を行うこととなります。
 「比準元となる具体的な純山林は、評価対象地の近隣の純山林、すなわち、評価対象地からみて距離的に最も近い場所に所在する純山林とする」とされていますが、同じ市町村に純山林がない場合には、隣接する市町村等に存する純山林から比準することになりますが、税務署に問い合わせると比準先を指定してくれることもあります。


 市街地山林につき、純山林評価を行うと、その節税効果は絶大ですが(首都圏では、路線価評価額の95%以上の減額となることが多いです)、仮に、税務署に否認された場合の過少申告加算税のリスクも大きいので、特に「経済合理性の観点に係る判断」の結果、純山林評価を行う場合には、慎重を期す必要があります。判断に迷われる場合には、当事務所までお気軽にお問い合わせ下さい。






▼ 広大地評価・判定の詳しい情報はこちらをクリック! ▼
沖田不動産鑑定士・税理士事務所