不動産鑑定士・税理士 沖田豊明の広大地評価レポート
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前面道路と高低差がある広大地事例
2009年11月

 今回は、ご支援先の税理士先生より相談を受け、当事務所が更正の請求をした前面道路と高低差がある広大地事例をご紹介したいと思います。


 事実事項から確認しますと、評価対象地は、最寄駅から約2km(徒歩25分)で、バス便の利用が主となる地域に存し、現況は、同族会社への貸工場の敷地として利用されている地積約1,350平方メートルの土地でした。近隣には評価対象地のほかにも工場が散見されたものの、これらの工場は老朽化し、旧来からの利用がそのまま残っている状態であり、到底、現在の需要を反映したものではありません。また、用途地域は第一種低層住居専用地域(容積率は100%)に指定されており、周辺の利用状況や相続時点現在の市況から考えて、『分譲マンション適地』に該当しないことは明らかであったため、評価対象地の最有効使用は『戸建分譲用地』であると判断されました。

所在地 □□県●●市 用途地域 一低専・容積率100%
最寄り駅 約2km
 (約25分)
利用区分 貸家建付地:同属会社への貸工場の敷地
面責 土地:約1,350平方メートル 標準画地 100平方メートル
標準的使用 一般住宅の敷地 相続時点 平成18年

図1 ここで問題となったのが、評価対象地の形状です。

 当該土地は、左記のとおり、正面路線(西側)から見て、間口が約60mと広く、奥行が約25mと短い形状であるため、初期申告においては広大地の適用が自重されていました。

 当事務所で相談を受け、住宅地図・公図上で確認してみたところでも、確かに、平面的には、左記のような旗竿状の敷地で区画割できる可能性がありました(【図1】参照)。

 そこで、当事務所で現地調査を行ったところ、評価対象地が西側で接面する市道は、南側から北側への下り勾配となっていることから、評価対象地は南西端で接面道路よりも約1.5m低く、南西端から約15m付近までは1m以上の高低差があり、道路との間には大きな段差がありました。

 また、これより北側では道路との間の段差は徐々に小さくなり、北西端では逆に約0.6m高く、北側の接面道路よりも北東端で約1m高くなっていました。

 戸建分譲業者が購入し、区画割分譲することが想定される場合、通常は、評価対象地の地盤面を接面道路と等高か、それ以上の高さに造成することになります。しかし、評価対象地のように、地積も大きく、かつ、高低差も著しい場合には、多額の造成費が見込まれることとなりますので、戸建分譲業者は、(1)盛土・擁壁設置等の費用を負担し、道路面と平坦に整地した上で区画割分譲する場合と、(2)盛土はせずに、現況の地盤面を生かし、高低差の少ない部分から開発道路を設置して区画割分譲する場合で、どちらが合理的かを検討することになります。

図2 また、首都圏の場合、戸建分譲業者は建売業者が主となりますので、区画割後の画地数(住宅を何棟建てられるか)も利益を左右する大きな要因となり得ますが、本件では、(1)(2)のいずれの場合も、画地数は12区画となるため、建物から得られる利益はほぼ同等であり、結局は、土地の造成費の多寡で区画割の合理性を決定することが妥当と言えます。

 (1)の場合、開発道路の設置費用は要しないものの盛土費は嵩み、さらに、東側と南側の擁壁の設置費用が非常に嵩むことになります。

 (2)の場合、評価対象地の敷地内はほぼ平坦であるため、左記【図2】のとおり、開発道路を設置すれば、画地5〜12は道路とほぼ等高に接面することとなり、造成費(盛土費、既存擁壁の補修費等)は、(1)の評価対象地全体を西側道路と等高に造成する場合に比べてかなり安くなるものと考えられます。

 すなわち、経済合理性を重視する戸建分譲業者にとって、評価対象地は、西側市道との接続面で段差の小さくなった部分から道路を設置して区画割分譲をする方法が現実的な開発方法と判断されます。

 当方が不動産評価の専門家として、左記の図面のとおり、行止まり状の開発道路を設けて、全画地をほぼ整形地で区画割する方法が戸建分譲業者にとって合理的である旨の意見を記した不動産調査報告書を作成し、所轄税務署に更正の請求として提出したところ、広大地評価について是認されました。

 尚、本件の開発想定図の内、画地10・11は、西側の市道を接面道路として建築確認を得ることは可能であるものの、造成後もなお市道から1〜1.5m程度低い画地となるため、実際には市道からの乗用車等の出入は極めて困難であり、開発道路からの出入を想定することが現実的と言えます。すなわち、両画地は市道の直下にあることから、市道の通行者から覗き込まれる等の心理的な影響のほか、他の画地に比べて雨水の流入や通風及び乾湿等の環境的な個別的要因にマイナスの影響を受け、価値の減少が認められるため、両画地の地積の合計200平方メートルにつき「著しく利用価値が劣る▲10%」を主張したところ、こちらについても是認されました。

 本件に限らず、単に平面的に評価対象地の間口・奥行を見て、広大地の適用の可否を判断してしまっているケースが見受けられます。地積や形状のみではなく、高低差や造成費の多寡についても検討した上で、開発想定図の作成ができれば、説得力次第で、本件のように広大地が認められる可能性も十分にあります。

 当事務所では、広大地の証明に限らず、相続税の土地評価における考え方等のアドバイスも行っております。お電話のほか、FAX、Eメールでの相談も受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。






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