不動産鑑定士・税理士 沖田豊明の広大地評価レポート
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相続税取得費加算の活用
2009年5月

 ご支援先の税理士先生からの依頼で当方にて鑑定評価した事例です。ちょっとしたアイデアですが、親族間売買(等価交換)に不動産の鑑定評価を活用して相続税の取得費加算を利用することにより、大きな節税効果を得られるという素晴らしい事例ですので、皆様にもご紹介したいと思います。


 先生方もご存じの通り、相続により取得した土地を相続税の申告書の提出期限の翌日から3年以内(相続開始の日の翌日から3年10ヶ月以内)に譲渡した場合には、土地について納めた相続税額を取得費に加算して譲渡所得の金額の計算をすることができます(相続税の取得費加算〔措法39(1)、措令25の16〕)。

譲渡損益=総収入金額−(取得費+取得費加算額+譲渡費用)

 ここでいう「土地について納めた相続税」とはどのような意味でしょうか。相続人Aさんが、相続税評価額1億円の甲土地、同1億円の乙土地、同1億円の丙土地(合計3億円の土地)を相続し、相続税1億円を納めることになったとします。このとき、相続税1億円を納めるために、甲土地だけを売却しても、甲・乙・丙土地への相続税1億円を甲土地の取得費に加算できるということなのです。

 また、ポイントとなるのが、譲渡の対象は「相続により取得した土地」だけであり、相続税を納めるために相続人固有の土地を譲渡してもダメということです。

 今回の事案では、親は(1)貸家建付地を保有し、子は(2)更地を保有していました。


 上記のとおり、このままでは親が死亡した時、子の所有する更地を相続税支払のために売却したとしても、譲渡所得の申告の際に、相続税の取得費加算を適用することができません。また、今回の事案においては、親の所有する土地は貸家建付地であるため、市場性を勘案した場合、子の所有する更地と比較して、著しく換金性に劣ります。

 そこで、相続が発生する前に、「固定資産の交換の特例」を利用して、(1)貸家建付地の一部と(2)更地を等価になるように交換しておくのです。交換譲渡資産と交換取得資産は、ともに同種の資産でなければなりませんが、それは、土地は土地と交換、建物は建物と交換するという意味であり、例えば土地の類型が借地権と底地の場合や、今回の事案のように貸家建付地と更地の場合であっても問題はありません。また、親子間であるからといって、交換の特例が否認されることはありません。この結果、相続発生時には、(1)貸家建付地の一部が子の所有となり、逆に(2)更地を親が所有することとなっているため、相続財産である(2)更地を売却し、相続税の取得費加算が適用できるようにしようというわけです。

 ここで2つ目のポイントとなるのが、この親子間の交換は「時価」で行わなければならないということです。

 「時価」とは何でしょうか。所得税法上の「時価」とは市場価格、つまり取引市場に売りに出して売れる価格です。

 当然ながら、相続税を算定するための財産評価基本通達に則った路線価評価などは「時価」とは言えません。

 「固定資産の交換の特例」は、客観的に時価の異なる資産の交換であっても、交換当事者間に特別な関係がなく、

 贈与があったとは認められない場合には、合意した価額が「時価」として取り扱われますが(所基通58−9)、今回の事案は、親子間という特別な関係ある者の間での交換ですので、この「時価」を証明するために当事務所の不動産鑑定評価を活用していただきました。


 今回の事案の鑑定評価においては、まず、対象不動産(1)の鑑定評価額を算出しました。当該不動産は、宅地分譲が可能ですから、税務上の広大地評価の考え方の基礎である鑑定評価の手法の一つである開発法を適用しました。そして、(2)の鑑定評価額が求められた後に、(1)の一部の鑑定評価に取り掛かりますが、(1)のうち、どの程度の面積を交換したらよいか、(2)更地の鑑定評価額に対して等価になるまで、交換部分について、何回も開発想定を行い、当該部分の面積と鑑定評価額を最終的に決定します。ここで注意しなければならないのは、(2)の総額÷(1)の地域の地価相場(単価)でその交換する部分の面積は必ずしも決まるものではないこと、もう一つは、現況の建物の位置するところに分筆線を引かないようにすることです。

 当事務所では、広大地の証明や相続税の土地評価のほか、今回の事案のような相続対策としての等価交換や同族会社間売買及び親族間売買を行う場合の不動産鑑定評価書の発行も主な業務としております。単に鑑定評価するだけではなく、税務上の取扱いも含めてアドバイスしておりますので、何なりとお気軽にご相談ください。


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