不動産鑑定士・税理士 沖田豊明の広大地評価レポート
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広大地評価の適用事例
2009年1月

 今回は、広大地について、開発道路を設けて開発する方が妥当な土地か否かについて、当事務所で扱った事案からご紹介したいと思います。


 左記A図のような土地について、開発道路を設けて開発する方が妥当な土地と判断して下記B図を添付し、広大地の適用をしていなかったとして更正の請求をしたものです。これに対して、税務署側は、下記C図の開発図面を示し、開発道路を設ける必要はないので、広大地に該当しない旨連絡してきました。

 早速当方は、開発図(B)・(C)のどちらが最も合理的な開発であるかを説明するために、「合理的な開発とは、戸建分譲業者にとって一番分譲総収入が多くなる分割方法である」と主張し、(B)図を前提とした場合と(C)図を前提とした場合のどちらが分譲総収入が多くなるかを、不動産鑑定士の立場から算定しました。

 その結果、(B)図の場合の総収入は100,900千円(112千円/平方メートル)、(C)図の場合の総収入は98,400千円(109千円/平方メートル)となりました。よって、(B)図の場合すなわち開発道路を設けて分譲する方が妥当であるので、当該地は広大地に該当すると再度税務署側に説明しました。すると3週間後に担当者から連絡があり、「私は、合理的な分割とは必ずしも分譲総収入が大きい方とは限らないと思うので、本件については、やはり、道路を設けないで分割するのが妥当と考えます。よって広大地は認められません。」との事でした。

 しかし、分譲業者は、分譲総収入の差で判断しないのであれば、どのような判断基準で道路を設けるのでしょうか? 担当者からそれについての説明はまったくありませんでした。裁判事例や、裁決事例では、対象地の周辺の開発状況を判断の基準にしていますが、評価の専門家の立場からすれば、たとえ隣接地又は道路を挟んで向かい側の土地が開発道路を設ける事なく分譲していても、対象地の間口と奥行との関係・地積・形状等により判断は異なってきます。基本的に道路を設けて分割するか否かは、その土地の個別的要因であり、地域要因ではありません。

 首都圏では、一般的に分譲画地100平方メートルを基準とした場合、対象地の奥行きが25mまでは、道路を設けずに開発する場合が多いようです。また奥行き30mの場合は道路を設けて開発する場合が多いようです。25mから30mの場合は、個々の開発業者により、両方が考えられます。本件土地もまさにこのグレイゾーンに該当する土地です。当事務所で扱った案件の中には、同じような土地で広大地が認められた事案もあります。

 つまり、実務上、開発道路を設けて開発する場合と開発道路を設けないで開発する場合の両方が考えられるような土地は、広大地か否かは審査する税務署の担当者の判断しだいと言う事です。しかも一般的に税務署側は納税額を増やしたいという意識が働きますので認めない傾向にあります。ただし前記のとおり当事務所の経験からいうと、まったく認められない訳でもなく、是認されている事案もあります。

 以上から、対象地の奥行きが25mから30mの土地については、広大地を適用して申告するかどうかは慎重な判断が必要です。

 なお、今回の事案について補足的な説明をしますと、標準的な画地の時価は144千円/平方メートルです。前記のとおり、(B)図に基づく単価は112千円/平方メートル、つまり道路を設けることによる減価は144千円―112千円=32千円で、32千円÷144千円≒22%です。また(C)図に基づく単価は109千円/平方メートル、つまり分譲画地が不整形地による減価は144千円―109千円=35千円で、35千円÷144千円≒24%です。土地の時価から考えて現実の市場において、どちらもほぼ同じ減価率であり、どちらを前提にしても、土地の現実の時価はほぼ同じであるにもかかわらず、税務上の評価に大きな差が生じるのは問題です。私がいつも主張しているように、価値論からみれば道路を設けなくても、道路を設けた場合とほぼ同様の減価が生じているので、このような土地は広大地として認めるべきと考えます。

 このような土地は広大地と認定されるように、今後もさらに課税当局に対する説得力ある理論構成を研究して、チャレンジしていきたいと思いますので、先生方の案件で本件事案に類するものがあれば、ご相談ください。


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