企業価値評価の基礎


企業価値とは〜事業価値とキャッシュフロー(2)
(決算書から算出するフリーキャッシュフロー)



 今回は、「事業価値」の最重要要素である「フリーキャッシュフロー」の定義と、これを決算書から算出する方法についてご説明します。

 キャッシュフローは、通常下記の3種類に分けて計算します。

 ■営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)
 ■投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)
 ■財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)

 企業が事業を営む以上、その営業活動によって販売代金を得たり、仕入代金を払ったりすることで現金の出入り、すなわち「キャッシュフロー」が生じます。これが「営業活動によるキャッシュフロー」であることはおわかりかと思います。

 では、「投資活動によるキャッシュフロー」と「財務活動によるキャッシュフロー」はいかがでしょうか?

 これをイメージするために、今回はまず車の買い替えを例に考えてみましょう。

 車の買い替えに際しては、「これまで乗っていた車を買い取ってもらう」「不足資金分はローンを組む」ことが多いのではないでしょうか。つまり「車の買い替え」という行為にも、(あくまでも一例ですが)下記のような現金の出入り、つまりキャッシュフローが発生します。

 (1)これまで乗っていた車を中古車として処分し、売却代金を得る
 (2) 購入代金のうち、自己資金と(1)の売却代金での不足分をローン(借入金)で調達する
 (3) 自己資金、中古車売却代金およびローン(借入金)で調達した資金により、新しい車の購入代金を支払う
 (4)ローン(借入金)を返済する

 ここで、上記の「車」を製造業の会社の「生産設備」に置き換えてみるとどうでしょう。

 (1) これまで使用していた生産設備を中古として処分し、売却代金を得る
 (2) 新規生産設備購入代金のうち、自己資金と(1)の売却代金での不足分を金融機関からの借入金で調達する
 (3) 自己資金、中古設備売却代金および借入金で調達した資金で、新規生産設備の購入代金を支払う
 (4)借入金を返済する

 (1)と(3)は会社の「設備導入・処分」に伴うもので、会社にとっては「投資活動」です。
 一方(2)と(4)は、「資金調達」に伴うもので、会社にとっては「財務活動」です。

 つまり、それぞれで発生した現金の出入りが「投資活動によるキャッシュフロー」、「財務活動によるキャッシュフロー」というわけで、3つのキャッシュフローを整理すると下記のようになります。

種類 概要 キャッシュイン
(CFプラス)の例
キャッシュアウト
(CFマイナス)の例
営業CF 会社の基本的な営業活動から獲得した(もしくは流出した)資金のこと。事業を行う上で基本となる、最も重要なキャッシュフロー。 受取手形の現金化
売掛金の現金回収
など
支払手形の決済
買掛金の支払
など
投資CF 会社の投資活動から獲得した(もしくは流出した)資金のこと。投資活動には、資金運用としての株式売買や土地などの固定資産売買といった取引も含まれるが、中心になるのは設備投資に関する取引。 不動産や車、機械等の
売却による現金収入
など
不動産や車、機械等の購入による現金支払
など
財務CF 会社の財務活動、主として資金調達活動により獲得した(もしくは流出した)資金のこと。営業活動や投資活動による資金が「獲得<流出」の場合はその不足資金をどのように穴埋めしたか、逆に「獲得>流出」の場合は、それを程度返済に回したか、などを示す。 借入金や社債による新規資金調達
増資による資金調達
自己株式の売却
など
借入金や社債の返済
株主への配当金支出
自己株式の取得
など

 そして、一般的に営業CF投資CFを足したものを、「フリーキャッシュフロー」といいます。営業CFと投資CFの意味を踏まえて定義すると、下記のようにいえるでしょう。

 販売と仕入といった基本的な営業活動の結果手元に残った現金から、今後も事業を継続していく上で必要な設備の導入費用代金を支払った現金の残り

 別の言葉で言うなら、フリーキャッシュフローとは「企業が借入や増資等での資金調達・返済といった財務活動を行わなかった場合の、純粋な事業活動のみで生じたおカネの収支」でもあります。

 すなわち、フリーキャッシュフローが表しているのは、

 企業が事業活動だけを行った場合、どれだけキャッシュを獲得できているか(もしくは失っているか)

ということなのです。

 借入等の財務活動で得た現金収入を含んでいないため、フリーキャッシュフローは純粋に事業だけで得られたキャッシュフローの創出能力といえます。

 一方、借入金を返済する(財務CFの現金支出)ために、新たに借入を行う(財務CFの現金収入)のでは、本当の意味での借入金の返済にはなりません。借入金を本当に返済するための原資は、事業で獲得したキャッシュ、すなわち「フリーキャッシュフロー」以外にはないのです。

 いかがでしょう?

 フリーキャッシュフロー = 「事業だけで得られたキャッシュフローの創出能力」

という定義はご理解いただけたでしょうか。

 では、この「フリーキャッシュフロー」、どのように算出すればよいのでしょうか。

 そもそもキャッシュフローの算出方法には「直接法」「間接法」という基本的に異なる2つの方法があり、フリーキャッシュフローそのものの考え方にもいくつかのバリエーションがあるため、「フリーキャッシュフロー」の求め方も1つではありません。

 まず「直接法」ですが、これは実際に生じた現金の出入の全てを記録し、その取引内容ごとに「営業CF」「投資CF」「財務CF」に分類して収支を計算する方法。したがって当該企業で実際に現金出納管理を行っている立場にないと計算することができません。

 一方「間接法」は、決算書の損益計算書(PL)のある利益を出発点とし、当該利益算出過程で営業CFには該当しない収益・費用や実際には現金支出のなかった費用を戻すといった調整計算と、2期分の貸借対照表(BS)の売上債権・棚卸資産・買入債務の増減から求めた「運転資本」の加算により営業CFを算出する方法のことで、「直接法」よりも簡便といわれています。このため自社のCF計算でも前出の「直接法」より「間接法」を採用するケースがほとんどと言っても過言ではありません。

 ところで、TDBは各企業の現金出納の詳細を知りえる立場ではありませんが、信用調査で「決算書」を入手し、これをデータベース化しています。

 そこでTDB企業価値算出サービス「Value Express」では、「間接法」をベースに、以下の算式で「フリーキャッシュフロー」を算出しています。

フリーキャッシュフロー=
  経常利益 ・・・ これをいったん営業活動による現金収支残と仮定して・・・










支払利息 ・・・ 営業外費用としてPLの経常損益に計上されているが、金融資産に関する支出のため、事業外支出としてこの分を戻す(支払がなかったことにする)
受取利息 ・・・ 営業外費用としてPLの経常損益に計上されているが、金融資産に関する収入のため、事業外収入としてこの分を戻す(収入がなかったことにする)
減価償却 ・・・ 主に営業費用としてPLの経常損益に計上されているが、実際に現金は支払っていないため、この分を戻す
法人税等 ・・・ PLの経常損益計算段階には含まれていないが、法人として事業を継続する以上必要な支払いの一つであるため、この分をキャッシュアウトとして差し引く
運転資本増減額 ・・・ 「売上債権の増加(減少)=販売代金現金化の遅延(早期化)→CF減少(増加)」
「棚卸債権の増加(減少)=販売代金現金化の遅延(早期化)→CF減少(増加)」
「買入債務の増加(減少)=仕入代金支払の先延ばし(前倒し)→CF増加(減少)」
のため、運転資本増減(増加は支出増、減少は収入増)を営業CFに加算
設備投資額 ・・・ 投資CFに相当(設備売却額はプラスとして加算)するため差し引く  


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