企業価値の向上策 1
前回までは企業価値の評価方法を説明しました。ではどうすれば企業価値は上がるのでしょうか。今回は企業価値の向上策について、簡単に説明します。企業価値向上策には、大きく以下の3つが考えられます。
I.収益性の向上
企業価値を向上させるには、「
収益性の向上」が先決です。収益性を向上させるには、売上高の向上や、売上原価、販管費、営業外費用の削減が必要になります。
その方法の例として、以下のものがあります。
戦略見直しによる売上高の向上 |
ビジネスモデルや事業ポートフォリオの見直し |
顧客満足度の向上 |
営業力の強化 |
業務効率化によるコスト削減 |
アウトソーシング |
仕入れ先の集約 |
共同仕入れ |
生産工程の見直し |
管理の徹底 |
<収益性向上のための主なモニタリング財務指標>
収益性向上の
モニタリング
財務指標 |
指標名 |
計算式 |
売上高伸び率 |
最新期売上高÷前期売上高 |
売上総利益率
※または売上原価率 |
(売上高−売上原価)÷売上高
※売上原価÷売上高 |
売上高営業利益率
※または売上高販管費率 |
営業利益÷売上高
※販管費÷売上高 |
売上高経常利益率 |
経常利益÷売上高 |
II.投資(資産)効率性の向上
「
投資(資産)効率性の向上」とは、資産の有効活用をして、「
スリムなバランスシートにすること」「
ムダな資産を持たないこと」を表します。
資産は流動資産と固定資産に分けられ、それぞれの圧縮を目指します。
1.流動資産の圧縮
不要な流動資産の圧縮は、事業に必要な資金である「運転資本」の圧縮に繋がります。運転資本は、一般的には『売上債権+各種在庫−買入債務』で計算されますので、流動資産の圧縮とは売上債権と各種在庫の圧縮のことになります。
(1)売上債権の圧縮
売上債権の圧縮は、「
できるだけ早期に代金を回収する」ということになります。代金を回収してはじめて売買契約の成立であり、売って終わりという訳ではありません。代金回収を徹底して、「代金回収までが営業の仕事」という意識付けをすることが大切です。
売上債権の圧縮 |
代金回収の徹底 |
販売条件の変更(回収サイトの短縮) |
(2)各種在庫の圧縮
在庫は取得に要した資金が回収に至るまでの途中段階になりますので、キャッシュフローにはマイナスの資産です。回転率を上げ、なるべく圧縮した状態を保つことで企業価値を上げることが出来ます。
在庫圧縮や無駄の削減のポイントは“
可視化”です。以下のような方法で、在庫も売上債権と同じように少しでも早く回収することが大切です。
各種在庫の圧縮 |
ABC分析等による在庫管理の徹底 |
ジャストインタイム等の仕入体制 |
不良在庫の処分(セール実施や売却) |
品揃えの見直し(回転が良い商品への変更) |
※利益を搾り出すために、会計処理で在庫を積み増していると思われる決算書もあります。期末在庫を増やし売上原価を少なくして利益を多く見せますが、この行為は粉飾であり、翌期の利益を当期に付け替えているだけです。翌期の利益が取られるため、翌期には翌々期の利益を付け替えるハメになり、一度やってしまうと抜け出せなくなる負の連鎖になります。健全な経営を維持するためには、適正な在庫管理と共に適正な会計処理や開示が不可欠です。
2.固定資産の圧縮
次に固定資産ですが、不要な固定資産、すなわち値上がりの期待できないような投資有価証券、ゴルフ会員権、遊休地などは売却を検討します。持っているだけで生み出すものが何もなければ、結果的に資金が寝てしまうことになります。もし決算で利益が出ているのであれば、不要な固定資産の売却で損失計上することで節税にもなります。
固定資産の圧縮 |
投資有価証券の売却 |
ゴルフ会員権の売却 |
遊休地の売却 |
固定資産の証券化(費用化) |
なお、「一等地の建物など資産価値の高いものであれば、そのままで良い」というわけではありません。ポイントは「
資産がどれだけのキャッシュフローを生んでいるか」です。一等地の建物であれば、それだけの投資に見合ったキャッシュフローを生んでいなければ資産を有効活用していることにはなりません。
資産の取得には資金が投じられており、「投資とリターン」の観点から投資に見合うリターン(期待する収益)を得る必要があります。企業に投資している「資金の出し手」の立場では、期待した収益を生まない資産に投資するよりも、ほかの資産に投資して欲しいと考えます。場合によっては、「期待収益を満たす資産への投資」を働きかけることもあります。
このように、企業は常に投資収益、資産効率を考慮しなければなりません。また、
「収益性の向上」と「効率性の向上」は両輪で、両立することが必要です。
<効率性向上のための主なモニタリング指標>
投資(資産)
効率性の
モニタリング
財務指標 |
指標名 |
計算式 |
売上債権回転期間 |
売上債権÷月平均売上高 |
棚卸資産回転期間 |
棚卸資産÷月平均売上高 |
買入債務回転期間 |
買入債務÷月平均売上高 |
運転資本回転期間 |
運転資本÷月平均売上高 |
売上高運転資本増加額率 |
(当期運転資本−前期運転資本)÷売上高 |
固定資産回転期間 |
固定資産÷月平均売上高 |
総資本開店期間 |
総資本÷月平均売上高 |
※運転資本=売上債権+棚卸資産−買入債務
「財務の最適化」については次回ご説明します。