企業価値の評価方法 5 〜インカムアプローチ(DCF法)
5 DCF法のポイント
(2)資本コスト
DCF法は、将来のフリーキャッシュフロー(以下FCF)を資本コストで現在価値に割引き、合計したものを事業価値とします。資本コストとは、企業の資金提供者等に対するリターン(リスク)のレートのことで、資金提供者が期待するレートとも言えます。資本コストのことを、割引率、期待収益率とも言います。
この資本コスト(割引率)が、“将来のFCF”の“将来”と“現在”を結びつける、すなわち“時間”を考慮するものになります。DCF法では、この“時間”というものを重要なものと捉え、実態に即して計ります。
将来の価値と現在の価値は同じではありません。例えば、金利が10%複利の銀行に100万円預ければ、
1年後・・・100万円×1.1=110万円
2年後・・・100万円×1.1×1.1=121万円
3年後・・・100万円×1.1×1.1×1.1=133.1万円
になります。逆に考えれば、1年後に100万円欲しければ、
100万円÷1.1=90.9万円 (1÷1.1=“0.909”を100万円に乗じても可。この0.909を現価係数と言います)預ければ良いことになります。
この場合の100万円が“将来のFCF”にあたり、10%が“資本コスト(割引率)”、“100万円÷1.1”が“割引く”、9.09万円が“現在価値”にあたります。
この時間価値というものの重要性をひとつの例で示してみましょう。
(例)
プロジェクト投資額:1,000万円
プロジェクト期間:5年
キャッシュインフロー:毎年210万円
資本コスト(割引率):5%
【時間価値を考慮しない場合の投資可否】
210万円×5年=1,050万円
投資額1,000万円を超えているので、“投資可”
または、
1,000万円÷210万円=4.76・・
プロジェクト期間の5年で回収できているので、“投資可”
なお、上記の方法を回収期間法と言います。
【上記事例についての時間価値を考慮する場合の投資可否】
|
1年目 |
2年目 |
3年目 |
4年目 |
5年目 |
合計 |
キャッシュインフロー |
210万円 |
210万円 |
210万円 |
210万円 |
210万円 |
210万円 |
現価係数 |
0.95 |
0.90 |
0.86 |
0.82 |
0.78 |
|
現在価値合計 |
199万円 |
189万円 |
180万円 |
172万円 |
163万円 |
903万円 |
現在価値合計が903万円と、投資額1,000万円を超えていないので、“投資不可”
このように時間価値を考慮する場合と考慮しない場合とでは、投資の可否判断が異なるケースも出てきますので、時間価値を考慮することは重要なのです。
DCF法での資本コストは、資金調達先により「有利子負債の出し手によるもの=負債コスト」と「株主によるもの=株主資本コスト」に分けられることから、企業全体のコストは、両者の加重平均をとって算出します。これを「加重平均資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)と呼び、これを資本コストとして使用します。
資本コスト= |
D×RD×(1−T) |
+ |
E×RE |
|
|
D+E |
D+E |
D:有利子負債価値(額) E:株式資本価値(額) T:税率
RD:負債コスト(支払利息率) RE:株式資本コスト(キャピタルゲイン、配当率)
リスクが大きい企業に対しては、求める収益率も大きくなり、資本コスト(割引率)が高くなります。
このように、将来得られるキャッシュを現在の価値に割り引く際には、資本コスト(割引率)を使って時間を考慮し、それぞれの年度のキャッシュの現在価値を合計したものが事業価値となります。