今注目の企業価値評価


企業価値の評価方法 2 〜マーケットアプローチ



 「マーケットアプローチ」とは、比較対象となる企業や業界を基準として企業価値を算出する方法であり、評価対象企業の決算書等の数値に係数(一定の率)を乗じて価値を算出します。 1.「類似企業比較法(類似企業株価指標倍率法)」と、 2.「類似業種比較法(類似業種比準法)」などがあります。

 「マーケットアプローチ」では、評価方法に実際の“株価”の要素を盛り込みます。“株価”は、企業や業種が持つプラス要素、マイナス要素が十分吟味されたうえで、「買い手」と「売り手」の間で実際に取引が行われ、決定されています。その“株価”を使って評価を行うことから、より具体性を持った評価方法ということができます。

 1.「類似企業比較法」、 2.「類似業種比較法」は、それぞれ以下のような特徴があります。

   1.類似企業比較法  2.類似業種比較法
係数 類似した企業や目標とする企業(上場企業が一般的)の時価総額から、係数を算出します。 株価等を考慮した税務当局指定のロジックや係数を利用します。
使用場面 手早く価値を算出したい場面や、上場を目標に置いている場面で利用します。 相続時の株式評価の場面で利用します。
問題点 算出根拠に乏しく、乗じる係数により算出される価値が大きく左右されます。 相続時の株式評価用であり、それ以外の用途には適していません。


1 類似企業比較法(類似企業株価指標倍率法)

 評価対象企業の売上高など、任意の指標に係数を乗じて価値を算出します。係数は類似企業の株式時価総額を評価対象と同じ任意の指標で除したものから算出します。

類似企業の株式時価総額 ÷ 類似企業の任意の指標(売上高など) = 係数
評価対象企業の任意の指標(売上高など係数作成と同じ指標) × 係数 = 価値

 指標として何を選択するかによって、算出価値が適切に算出できない可能性もあるため、任意の指標は売上高や営業利益、EBITDA(※4)など複数使用するのが一般的です。同様にどの企業を“類似”として選択するかによっても結果が大きく変わってしまうため、類似企業も複数用意します。複数使用した指標や複数用意した企業の中で、算出された価値の集団の中で平均もしくは中央値から乖離の少ない指標や対象企業をそれぞれ任意でいくつか選択し、選択した指標および対象企業の組み合わせによる算出価値の平均値を、最終的な算出価値とする方法がよく採られます。

 ※1  使用する指標により、株式時価総額を金融資産や有利子負債で調整する場合もあります。
 ※2  装置産業では有形固定資産額を考慮する場合もあります。
 ※3  財務指標を使用するのが不適当な場合は、契約数などを使用する場合もあります。
 ※4  EBITDA(イービットディーエー)とは、『営業利益または「経常利益+支払利息−受取利息」で算出されたものに、減価償却費を加算したもの』です。本業であげたキャッシュフロー(狭義)を表します。


2 類似業種比較法(類似業種比準法)

 「類似業種比較法」は税法(法人税・所得税・相続税など)との関係上、国税庁が財産評価のために採用している方法です。同族・関係者間で株式を移転(売買)する場合は、株価を操作して利益供与や租税回避にならないように、相続時の株式評価の場合には国税庁の統一した評価方法により評価する必要があります。

 ※  同庁からは、評価に必要な基礎データが月間ベース、年間ベースで公表されており、それらを使って対象企業の評価を行います。

  類似業種比較法(類似業種比準法)は、租税法上の公正さを保つために一定の基準のもとで算出結果に大きなぶれが出ないように評価する方法です。評価は「財産価値」視点で行われるため、その「評価」の活用も限られます。例えばM&Aの局面では、事業の将来生み出すキャッシュなどに着目した評価が必要になり、この「財産評価」(類似業種比較法)は将来の事業の価値を測定することが出来ないため、評価方法として適していません。


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