3)資金を用意するための保険金額の設定
さて,上記にみた1億8950万円をそのまま保険金として考えた場合,この保険金の課税関係はどう扱われ,実際の法人としての受取額はどうなるのだろうか?
かりに,この保険を10年定期保険,保険料は全額損金タイプで加入していたとすると,保険金は益金に算入されることになる。その場合,死亡時1年目の当期利益であるマイナス1億5200万円までは課税対象とならないが,それを超過した部分である3750万円(保険金1億8950万円−赤字1億5200万円=3750万円)は課税対象であり,税金がかかる。法人税の実効税率を41%として計算すると「3750万円×41%=1537万5000円」が税額である。このため実質的な受取りとして残る金額は1億7412万5000円となる。
(保険金1億8950万円−税額1537万5000円=1億7412万5000円)
資金繰りから考えた場合,実額として1億8950万円が必要なわけであるから,以上でみたようにこの必要金額をそのまま保険金設定すると,結局は不足することがわかる。
そこで保険金の設定方法は以下のとおりで計算する必要がある。
(1)必要金額 1億8950万円
(2)経営者死亡時の赤字額 1億5200万円
(3)上記差額((1)−(2)) 3750万円
(4) |
税率41%とした場合,41%控除後に3750万円を確保する場合の金額=6400万円
(3750万円÷(1−0.41)=6355万9322円) |
(5)必要保険金額((4)+(2)) 2億1600万円
となるわけである。
逆算で検証してみると,
保険金2億1600万円を受け取った場合,赤字1億5200万円があるので,課税対象額は6400万円。
法人税実効税率41%とした場合の税額は2624万円。
(6400万円×41%=2624万円)
税控除後の実質受取額は1億8976万円となるわけである。
(保険金2億1600万円−税額2624万円≒1億8950万円)
ここまでみてきたように,中小企業経営者の必要保障額の算定は,それぞれの状況に応じて,まずキャッシュフローから考えた経営者死亡時の影響を予測することがもっとも重要な出発点である。たとえば,今回の設定では,経営者死亡時に役員・従業員の流出による退職金支払いが3000万円必要という設定としたが,この退職金について別途の準備をあらかじめしていたとすれば,この金額は保障額の算定上は必要ない。
また,社長の遺族への死亡退職金5000万円を計上したが,前章までの役員退職金の準備のための生命保険を利用していれば,この部分についても必要保障上の算定には入れる必要はないことになる。
したがって,この影響予測はそれぞれの企業のそれまでの様々な財源準備の状況などにも影響される。
いずれにしても,簡易的なキャッシュフローから資金繰りへの影響についてポイントを絞って予測し,経営者死亡時の必要保障額を算出することで企業にとってのリスクマネジメントとして生命保険を活用することが可能となる。
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