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2)事業を継続することを前提とした必要保障額の算出

 キャッシュフロー計算書を直接法で作成すると,売上総利益率や売掛金回収率,買掛金支払率などの算出があるので,この率を悪化させるなどの条件設定をすれば,かなり細かい方式で計算が可能であるが,これは手間隙がかかりすぎる問題がある。したがって,現在では,間接法からキャッシュフロー計算書を作成するケースが一般的と思われる。

 そのため,ここでは間接法により当面の資金繰りの影響を把握してみよう。

 まず通常の年の損益とキャッシュフローである。これは経営者が通常に経営しているときの会社の状況を表していると解釈できる。その通常の状態に対して,経営者が万一死亡するような事態となったときのいくつかの影響予測を算定することになる。

 この算定(予測)は,
(1)売上の減少
(2)支払条件の変更による借入元金返済
(3)役員・従業員の流出による退職金支払いなどが考えられる。

 なお,短期支払いの増加(手形→現金など)については便宜上,(2)に反映させることにしよう。

 ここでは,経営者死亡の影響を以下のように設定することとしてみよう。

(1) 売上の減少については死亡時1年目に50%,2年目30%,3年目10%と減少幅が小さくなるが,数年の幅で影響がある。
(2) 社長本人の死亡退職金を5000万円,役員・従業員の一部が流出して退職金の支払いを3000万円とする。経営者死亡により,役員や従業員の動揺を想定し,退職金の支払い財源を考慮する。
(3) 借入金5000万円の返済を計上。長期借入金については,この借入れに基づく投資の事業上の収益が,経営者死亡により大幅に狂うので,万が一の際には全額返済を行う設定としている。

 以上を反映させてみてみよう。

 簡易キャッシュフローは,当期利益に資金流出の伴わない減価償却費をプラスし,一方資金は,流出しているが経費認識しない借入金元本返済部分をマイナスして算出するという手順をとる。

 このプロセスにおいて,まず経営者死亡時の突発的なリスクとして表2の段階で売上の減少による経常利益のマイナス,社長本人の遺族への死亡退職金5000万円,役員・従業員の流出による退職金3000万円を計上した。退職金は損金算入されるので,表2の損益段階での反映となる。これらを反映して,当期利益を算出する。

 その上で表3の段階で資金の流出とはなるが,損金算入されない借入金元本部分の全額返済5000万円を資金流出として,経営者死亡時1年目に計上したものである。

表2 単位:千円
  通 常 期 経営者死亡
1 年 目
経営者死亡
2 年 目
経営者死亡
3 年 目
売上高 1,000,000 500,000 700,000 900,000
売上原価※ 800,000 400,000 560,000 720,000
売上総利益 200,000 100,000 140,000 180,000
販売費・一般管理費 170,000 170,000 170,000 170,000
(人件費) 80,000 80,000 80,000 80,000
(減価償却費) 23,000 23,000 23,000 23,000
(他の経費) 67,000 67,000 67,000 67,000
営業利益 30,000 −70,000 −30,000 10,000
支払利息 2,000 2,000 500 500
経常利益 28,000 −72,000 −30,500 9,500
社長の死亡退職金   −50,000    
役員従業員退職金   −30,000    
当期利益 28,000 −152,000 −30,500 9,500
 売上原価率は80%として設定している。

表3 簡易キャッシュフロー 単位:千円
  通 常 期 経営者死亡
1 年 目
経営者死亡
2 年 目
経営者死亡
3 年 目
(1)当期利益 28,000 −152,000 −30,500 +9,500
(2)減価償却費 23,000 +23,000 +23,000 +23,000
(3)借入金元金返済 3,000 −50,000 3,000 −3,000
簡易キャッシュフロー 48,000 −179,000 −10,500 +29,500

 このため,1年目には,1億7900万円のキャッシュフロー上のマイナスが発生する。

 さらに2年目には,売上の減少分のマイナスの影響から1050万円のキャッシュフロー上のマイナスが計上される形となっている。これらのことから,上記のケースでは経営者死亡時1年目の1億7900万円+2年目1050万円の合計である1億8950万円を資金として補填することができれば,資金繰り上は経営者死亡によるリスクをカバーできることになるわけである。



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