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4)法人の税率上の問題を考慮する

 ここまでみてきたように,給与所得と退職所得のバランスのとり方で,ケースによっては所得税,住民税の負担額が相違し,手取り収入の増加を結果としてもたらすケースを整理してきた。それではそのような場合,法人企業のサイドでの影響はどのようなことがあり得るだろうか?

 先にも挙げたように,役員報酬を引き下げて,それをそのまま放置すれば利益がその分増加するわけであるから法人税が増加することになる。一方,引き下げた分を生命保険の保険料に充当するといっても,将来の退職(生存および死亡)の際の退職金財源準備として利用するとなると,保険料は全額損金となるものだけでは利用が難しい。この「中小企業のための生命保険講座」でもみてきたように,1/2損金のケースが多いことはすでに読者もご存知のとおりである。このため役員報酬引下げ分を保険料に充当しても,その1/2は損金だが,残りの1/2は報酬引下げをしても利益として課税対象となると考えたほうがいい。

 そこで考慮すべきは中小企業の法人税率である。

 ここで法人税率を確認しておこう。

表3
    所得区分 税率
普通法人 資本金
1億円超
区分なし 30%
  中小法人
(資本金1億円以下)
年800万超の所得金額からなる部分 30%
    年800万以下の所得金額からなる部分 22%
(18%※)
※ 平成21年4月1日から23年3月31日までの間に終了する各事業年度の所得の金額のうち年800万円以下の金額については18%

 普通法人のうち,資本金1億円以下の中小企業において,仮に役員報酬を引き下げた場合,その引下げ額を生命保険料に充当し,それが1/2損金,1/2資産のケースで考えると,役員報酬引下げ分の1/2の額だけ利益が増加することになる。この増加後の金額が800万円超となる場合,言い換えれば役員報酬を引き下げる前の段階では,法人の所得金額が800万円以下,役員報酬引下げ後の法人の所得が800万円超となる場合には税率が12%(18%から30%)上がってしまうので,その分課税が増大することになる。したがって,役員報酬と退職金とのバランスをとって生涯所得を個人として増大することとあわせて,その企業側の影響を考慮して計画化する必要があるわけである。

 次章は経営者死亡の際の必要保障金額の設定の考え方を整理する。



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