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11.中小企業経営者の独自のポジションと資金効率


 前章,退職金を受け取る個人の観点について述べたが,その最後に同一金額を給与で受け取った場合と退職金で受け取った場合の「手取り額」の観点での相違を取り上げた。この相違は通常,それを認識することはできてもコントロールすることはできない。

 たとえば企業のサラリーマンが,自分の給与所得と退職所得を考えて給与を減らしたり,退職金を増やしたりできるわけではない。したがって,認識できることと,コントロールできることは通常は一致しない。しかし,中小企業経営者,特に同族企業の経営者の場合,完全なコントロールということではないが,少なくとも意思決定に大きく関わることができるという意味できわめて特殊な,独自のポジションを持っている。

 ここでは,その観点から生涯手取りの増大のための資金配分を退職金と絡めて整理していくこととする。


1)役員報酬と退職金準備

 企業経営者はその法人から役員報酬をもらう一方で,その企業の経営のために個人の資産を投入しているケースはそれなりに見受けられることである。このような場合,その経営者が退任した後,後継者が安定して経営を継続していくためには,退任する経営者の,それまで経営に投入してきた個人資産をどうするかという問題がつきまとう。当然,退任する経営者にしてみれば,自身が退任した後も企業が安定的に継続発展することを願う一方で,自身の退任後の生活も安定させなければならない。

 このような場合,退任後の生活のために,それまで経営の用に供していた資産(たとえば土地など)を退任後売却しなければ生活原資が不足するなどという事態は避けるべきことであろう。その点からも退任の際,経営者に退職慰労金を支給し,それが退任後の生活原資の重要な一部となるということは企業にとっても個人にとっても必要な措置であるといえる。

 このような観点から,役員報酬も大事だが,ある程度将来の退任の際の退職金の財源準備も重要である。

 しかし,資金的なゆとりが企業として確保できないということも考えられる。そのようなときに考えられる方法が,経営者が自身でコントロール可能な役員報酬と退職金財源準備のバランスである。



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