7)退職所得と給与所得
退職所得が担税力の観点からそこに配慮された扱いとなっていることを述べてきたが,それではどの程度の配慮なのだろうか?
例えば,同じ1000万円を退職所得で受け取った場合と,給与所得で受け取った場合の税務をみてその違いを明確にしておこう。
設定条件は退職金については在任年数10年の経営者が1000万円の退職金を受け取ったと仮定し,また給与所得控除以外の各種所得控除は合計100万円と仮定して計算してみよう。
表3 設定条件
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収入金額 |
所得控除 |
課税対象 |
退職所得 |
1000万円 |
退職所得控除400万円
(40万円×勤続年数10年) |
300万円
(1000万円−400万円)×1/2) |
給与所得 |
1000万円 |
給与所得控除220万円
(1000万円×10%+120万円)
各種所得控除100万円として
総計 320万円 |
680万円 |
表3でも明らかなように,退職所得については,収入金額−所得控除で算出された額の1/2が課税対象だということが大きく影響し,課税対象額の算出段階で大きく減少していることがわかる。
この結果,同一の所得税率表が適用されるわけであるが,退職所得は分離課税であるため課税対象が少なければそれだけ適用される税率も低くなるわけであるから,税額そのものも低くなる結果をもたらすのである。
表3にしたがって税額を計算してみると,退職所得の課税対象は300万円であるから,「300万円×税率10%−速算控除9.75万円=20.25万円」。
このケースの退職所得に関わる所得税は20万2500円ということになる。
一方,表3のケースの給与所得の場合,課税対象は680万円であるから,「680万円×税率20%−速算控除42.75万円=93.25万円」。このケースの給与所得に関わる所得税は93万2500円という計算だ。
(各種所得控除はこの設定金額より多い人も少ない人もいると思われるので,実際には個別のケースで計算してみる必要があるだろう)
いずれにしろ,同じ金額1000万円であっても,それが退職金としての収入の場合と給与としての収入の場合では,それぞれの担税力の違いに基づく配慮の差によって,課税対象が大きく相違し,税額も約4倍程度の差となっていることがわかる。
このケースでは勤続年数を10年としたが,これがさらに長くなっていればその差はさらに開くことになる。いずれにしろ,退職所得の優遇された取扱いがここでも理解できる結果となっている。
次章では,ここでみたような要素を考慮して,中小企業経営者の独自の視点から,経営する企業(法人)と自分個人の生涯手取りという観点で資金の効率化について取り上げる。
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