経営者・経理総務担当者向け 実務月刊誌ビジネス支援 第217号

 ≪CONTENTS≫

 今月の特集・・・ 『「未払い残業代請求」対策をしないと会社が潰れる3つの理由』
 経営・税務・・・ 『役員報酬の基本知識』
 経理・財務・・・ 『中小企業だけの税のメリットとは?』
『取締役と会社の利益相反取引』
『どっちが優先?遺言と遺産分割協議書』


バックナンバー



 今月の特集

「未払い残業代請求」対策をしないと会社が潰れる3つの理由
はじめに

 大企業においては減少の兆しがあるとはいえ、多くの会社で「サービス残業」は常態化していると思います。

 そのような中、「司法ファッショ」とも称される勢いで一斉に「残業代請求」されたらどうなるでしょうか。

 「残業代請求」は、裁判所が認めやすい土壌が揃っているのです。貴方の会社は生き残れるでしょうか。

「残業代請求」が注目される3つの理由

(1)「過払い金請求」に比べて「残業代請求」の方が認められる可能性大

 一時期バブル化した「過払い金請求」よりも「残業代請求」の方がよっぽど裁判で認められやすいともいえるのです。なぜでしょうか。

 それは、労働法の基本的な考え方と関わっています。経営者と従業員では従業員の方が弱者であるとして、従業員の権利を保護しようとするものが労働法です。そして、働いたら働いた分だけ賃金が発生するというのも労働法です。

 そうである以上、裁判所は次のように考えるのです。従業員が所定労働時間を超えて働いていたのだとすれば、働いた分だけ(残業代を含めた)賃金が支払われなければならない。今まで残業代や賃金が支払われなかったのは、弱者である従業員が強者である経営者に遠慮していたからだ。経営者は、「サービス残業」という名の下に、従業員に甘えている。従業員を助けてやらなければ、と。(これに比べて、「過払い金請求」は、利息制限法を素直に読めば、借主の主張は認められないようにも読めたので、当初はこれほど広がるとは思われていませんでした。)経営者からすれば、経営者だって弱い立場にあるんだから配慮してほしい、と思われる方も少なくないと思います。

 しかし、何の対策もしないままでは、裁判所が経営者に味方してくれることは期待できません。裁判所は従業員の権利を保護しようとするでしょう。

 会社としてできることは、訴訟にならないように、あるいは訴訟になった場合であっても、少しでも裁判所に味方になってもらえるように、常日頃から対策をしておくことです。訴訟になったときに負けないようにするためには、御社の事情を良く分かった弁護士及び社会保険労務士のアドバイスによって、事前にどれだけ日頃の対策ができているかどうかという点に大きく左右されるのです。

(2)あらゆる業種の企業に請求可能

 「過払い金請求」においては、請求先は消費者金融業者ら特定の業種に限られていました。しかし、「残業代請求」においては、あらゆる業種が対象になります。 東京大学医学部付属病院が労働基準監督署から是正勧告を受け、合計約9,776万円を支払ったニュースをご存知の方もいらっしゃることと思います。

 厚生労働省の「平成21年度の賃金不払残業(サービス残業)是正結果のまとめ」によると、1企業あたり最高額の是正支払をしたのは飲食業(12億4,206万円)、次いで銀行・信託業(11億561万円)だったとのことです。是正支払額が0円だったのは「官公署」だけでした。

 全業種において、「残業代請求」が問題になることが分かって頂けると思います。「残業代請求」に関する問題は、「対岸の火事」ではないのです。

(3)強大な権限をもった労働基準監督署が貴方の会社を強制捜査(調査)

 貴方の会社が残業代を支払わない場合、逮捕等の強制捜査権限をもった労働基準監督署が貴方の会社に捜査(調査)に入る可能性があります。

 捜査(調査)の後、残業代が支払われていないなどの違反があることが判明した場合には、是正勧告されることになります。再監督しても是正されない場合には、刑事事件として扱われる可能性があります。検察庁に送致・起訴された場合には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に科される可能性すらあります(違反者のみならず、法人にも罰金が科される可能性があります)。

 現状においては、労働基準監督署は人員不足であるといわれております。しかし、油断してはいけません。逆に言えば、人員不足であるがゆえに今まで問題視されなかったものの、本来ならば、いつ問題視されてもおかしくない企業がいくつもあることが容易に想像できるからです。

 労働基準監督署があなたの会社に捜査に入らないように、仮に捜査(調査)に入ったとしても、何ら問題はない、と言い切れるような態勢を作っておく必要があります。

この続きは月刊「ビジネス支援」本誌にて…

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役員報酬の基本知識
(1)はじめに

 企業が収入を得るために様々な費用を支出して事業活動を行っています。その費用の内訳として人件費の占める割合は高いと思います。今回はその人件費の中でも税法上の制限が厳しい役員報酬について確認していきます。

 まず、役員にはどのような者が該当するのでしょうか。役員の範囲を確認していきたいと思います。

(2)役員とは

 役員とは法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人その他法人の使用人のうち法人の経営に従事している者及び、同族会社の使用人で一定の要件を満たす者が役員に該当します。

 これら役員に該当する者に支払う報酬を役員報酬といいます。役員報酬の金額については経営者の恣意性が介入しやすく、また、利益操作防止の観点から多くの規制が設けられています。現行の法律では役員報酬についてどういった規制が設けられているのでしょうか。

(3)役員報酬の種類

 役員報酬については損金算入できるものと損金算入できないものの2つに分けられます。損金算入できるものとしては次の3つが上げられます。

(1)定期同額給与(2)事前確定届出給与(3)利益連動給与の3つです。このいずれにも該当しないものは損金の額に算入されないことになっています。

(ただしこのいずれかに該当するものであっても、不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入されません。)

 それでは損金算入が認められるものをひとつずつ確認していきます。

(1)定期同額給与

 定期同額給与とは「その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」という。)で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」をいいます。

 定期給与の改定・変更があった場合には、その改定・変更をした事業年度の期末までの定期給与が同額で無ければなりません。

 また、原則として給与の改定・変更はその事業年度開始から3ヶ月以内に行わなければなりません。

 例えば、3月決算の会社で役員に毎月70万円の定期同額給与を支給している場合は、その事業年度の4月から3月まで12ヶ月間は同額の70万円を役員に支給する。

 また、役員に支給する定期同額給与が毎月70万円であったのを、6月の定時株主総会で、7月から毎月100万円に改定・変更したときは、事業年度の始まりの4月から6月までの各支給額は70万円の同額である必要があり、改定・変更後の7月から翌年6月までの各支給額は100万円で同額である必要があります。

 また、定期同額給与は原則として定時株主総会の時点でしか変更が認められておりませんが、会社の業績が著しく悪化した場合等について減額変更が認められるケースがあります。どのようなケースが該当するのでしょうか。

 国税庁の「役員報酬に関するQ&A」に連載されているものです。

この続きは月刊「ビジネス支援」本誌にて…

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中小企業だけの税のメリットとは?

 資本金といえば会社の顔のひとつです。その金額によって対外的な信用度はガラリと変わってしまいます。

 特に中小企業の資金調達時には経営者の資金力や覚悟を示すものとして必ずチェックされる項目です。また、創業時の資金調達において金融機関が確認できる客観的な数字は資本金(または自己資金)くらいしかありませんので、なおさら重要です。

 では、資本金は大きければ大きいほど良いのか?答えは「NO」です。理由は税法上、資本金の金額によって中小企業を優遇するための様々な特典が設けられているためです。

 対外的な信用力と税法上のメリットなど総合的に判断して資本金を決めることが必要です。租税特別措置法などは、「資本金1億円以下」の会社を中小企業としていて、大企業と比べて財務基盤が強固ではない中小企業に対し、様々な税金面の優遇制度を設けています。

中小企業だけの税のメリット

1.資本金1億円以下の法人は税率が軽減される

 平成28年4月1日以後開始する事業年度について、本来23.40%の法人税率が、所得800万円以下の部分については15%に軽減されています。住民税、事業税を加味した実効税率では、33.80%の税率が400万円以下では21.42%、800万円以下では23.20%軽減されます。納税額では、100万円も減少します。

2.交際費の経費算入限度額が有利になる

 資本金が1億円以下であれば800万円まで全額交際費を経費にできます。(平成26年4月1日以後に開始する事業年度から適用)

3.特別償却、特別控除が適用される

 政策上、中小企業には各種の特別償却、特別控除が認められています。

(例1)中小企業者が機械等を取得した場合の特別償却又は特別控除

この制度の対象となる資産は、新品の次に掲げる資産で、指定期間内に取得し又は製作して指定事業の用に供したものです。

(1)機械及び装置で1台又は1基の取得価額が160万円以上のもの

(2)事務処理の能率化、製品の品質管理の向上等に資する次に掲げるいずれかのもので、1台又は1基の取得価額が120万円以上のもの
1.電子計算機
2.インターネットに接続されたデジタル複合機等
※特別償却限度額は、基準取得価額の30%相当額の特別償却限度額を普通償却限度額に加えた金額です。
※税額控除限度額は、基準取得価額の7%か、法人税額の20%以内です。
(資本金3000万円以下のみ適用可能)

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取締役と会社の利益相反取引
取締役と利益相反取引

 買い物をするとき、消費者であればできるだけ安く購入したいと考え、販売者であればできるだけ高く売りたいと考えますね。このように、お互いの利益が対立する状態を「利益相反」と言います。

 利益相反は、立場が違う者同士に関係が生じれば自然と発生しうるもので、これは取締役と会社の関係であっても同様です。では、本来会社に利益をもたらすべき取締役が、会社と取引をすることに問題はないのでしょうか。

 取締役は会社に対し忠実に職務を行う義務を負っておりますので、会社の利益を犠牲にして自分や第三者の利益を図るような取引は認められません。会社法ではこのような利益相反取引を規制しており、客観的に利益相反にあたる取引を行う場合には会社(取締役会または株主総会)の承認を得なければならず、この承認を得ずに行った取引は原則として無効になると解されています。利益相反取引にあたるかどうかは、公正な条件の取引かどうかではなく、利害対立が起きうる関係であれば一律に利益相反とされますので、事前の承認を得なければならない場面は思っている以上に多いものです。

利益相反取引の具体例

 たとえば、古くなった社用車を取締役個人の名義に変えるという場合は会社から社長への譲渡取引になりますが、本来であれば売却価値のあるものを、無償又は廉価で譲渡することにより会社が損害を受ける可能性があるため、利益相反取引になります。 また、取締役個人が持っている不動産や株式を会社名義に変えたいという場合も、無償譲渡でない限り利益相反取引になります。一見すると会社にとって有利に思われる低廉な価格での譲渡であっても、会社に支払いや負担がある以上、会社の利益を害する可能性があるため、承認が必要になるのです。

どっちが優先?遺言と遺産分割協議書

年々増える遺言作成件数

 相続・遺言に対する関心は年々高まっており、平成26年1月〜12月に全国の公証役場で作成された遺言(公正証書遺言)は10年前から約4万件も増加し、ついに10万件を超えました。

 家庭裁判所で扱われた遺産分割事件も同様に増加傾向にあり、こうした背景も影響していることがうかがえます。

 故人の遺志をできるかぎり尊重したいものですが、遺言を書いたときと相続時では家族の状況が変わってしまうということもあります。

 では、遺言の内容と異なる遺産の分割をすることは可能なのでしょうか。

遺言と違う遺産分割は可能?

 相続人の間で遺産分割の方法を話し合うことを遺産分割協議と言い、その結果を書面にしたものが遺産分割協議書です。

 判例では、(1)遺言によって遺産分割協議が禁止されている場合、(2)遺言執行者が選任されている場合を除き、遺言と異なる内容の遺産分割協議をすることは事実上認められています。実際、遺言と異なる遺産分割の方法を協議することは珍しくありません。 しかし、だからと言って全て遺産分割協議書が遺言に優先する、という意味ではありません。遺言の内容によっては注意が必要です。




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