●今月の特集
中小企業の資金調達が非常に厳しくなっています。無担保・無保証のいわゆるビジネスローンが、都市銀行では、みずほ銀行、りそな銀行、中央三井信託銀行が撤退し、残った三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行も審査が各段に厳しくなっています。また、平成19年10月から始まった保証協会付き融資の部分保証制度の導入により、銀行は保証協会付き融資の斡旋にも慎重な姿勢を取り始めています。唯一の朗報は国民生活金融公庫の無担保・無保証融資が2,000万円枠から4,800万円枠まで拡大されたことです。しかし、これとて企業が健全に運営されて初めて可能な資金調達と言えます。そこで今回は、中小企業の現状の財務構造に即した資金・財務対策について事例を中心に報告したいと思います。 【1】優良かつ健全な会社や個人事業主 営業収入−営業支出=差引営業収入(通常ならば減価償却費+税引き後利益)の範囲で借入金の返済が可能な会社や個人事業主の場合 例)図1の会社の場合、年間の営業収入 662,400千円、営業支出 612,120千円、差引営業収支 50,280千円。これに対して、年間金融機関返済額や設備投資等は39,000千円である。この会社の場合、借金を返済するためのお金を調達する必要がなく、新たな資金調達が発生しない、無借金経営に近い会社と言える。財務・経理担当者は、常に営業収支の範囲で借入金の返済や設備投資をする計画的会社づくりを経営者に助言すべきで、卑しくも放漫経営に荷担してはならない。 【2】優良会社であるが財務構造に問題がある会社や個人事業主 営業収入−営業支出=差引営業収入(通常 減価償却費+税引き後利益)の範囲で借入金の返済が不可能な会社や個人の場合 1.運転資金が多額に必要な会社 売掛金・商品在庫等残高−買掛金残高=必要運転資金が多額である場合。 例)人材派遣業の場合、人件費の支払いは当月中にも拘わらず、派遣先からの回収は二ヶ月かかるとすれば、売上が上がるほど資金繰りが悪化する。また、出版業の倒産に多いケースでは、全国の書店への在庫が多く、回収に半年以上の時間がかかり、出版点数が多いほど資金繰りが悪化する。建設・不動産業のように仕入代金が前もって必要であり、購入や建設後に販売代金が回収できる場合は、規模が大きくなるほど資金が詰まる。このような会社の場合、「たら、れば」にならず、手元現預金と銀行の与信枠による資金調達の拡大に合わせて会社の営業活動を行う緻密な経営判断が必要である。 (1) 年間損益計画と資金計画を緻密に作成し、新規借り入れ可能額を確認しながら事業規模を拡大する必要がある。 (2) 売掛債権や在庫の不良債権化を防ぐ緻密な売掛与信管理、在庫処分管理能力が必要である。 2.設備投資が多額で、折り返し融資が必要な会社 製造業等に多いが、設備投資の耐用年数が長く、税法上の減価償却費と資金調達の返済期間が大きくズレが生じている場合。 例)建物50年、返済期間10年の場合、減価償却費+利益では返済不可能であり、個別に資金収支を立てる必要がある。建物を担保に自己資金2割程度用意し、建物を自己所有したことによる地代家賃の圧縮と減価償却費を計算し、損益と資金の長期の流れを金融機関に理解してもらい、担保設定の上で50年の折り返し融資をお願いする。 【3】過去の借入が多額であり、営業収支で借入金が返済できない場合 多くの中小企業がこのようなケースに該当します。この場合でも以下の3パターンに区分して対策を練る必要があります。 1.営業収支がプラスであり、年間返済額の全額ではないが、一部は返済でき、不足分は借り換え可能な場合。 中小企業では一番多いケースであり、損益計画と資金計画を作成し、国金・保証協会付き融資、ビジネスローン、定期預金解約、経営者個人資産投入等のダム理論「故松下幸之助が提唱した企業の安全弁づくりの経営手法」で対応可能です。年度始めに損益計画と資金計画を立て、年間必要金額を銀行に事前に申し込みます。心配ですが、金利がかさんでも年度始めに必要資金の調達を済ましてしまう方が安心できます。後は損益計画を確実に実行していくだけです。 例)図2の会社の場合、営業収支が50,280千円とプラスであるが、年間銀行返済額がそれを上回る72,000千円であり、約22,000千円多い。年度始めに金融機関に経営計画を提出し、4月と9月に各10,000千円の融資をお願いしておくと1年間資金繰りの苦労もせず本業に専念できる。 2.営業収支がプラスであるが、年間返済額が多額で、折り返し融資の見込みも立たない会社の場合 現在信用収縮の影響をまともに受けている会社はこのケースのような会社です。ここ数年ビジネスローンで資金繰りに悩まず、少し浮かれて放漫経営気味だった会社の多くがこのようなケースに該当し、折り返し融資を断られ倒産に至っています。 この場合の対策は以下の手順が必要です。折り返し融資が不可能であれば、条件変更交渉以外にありません。 (1)損益計画と資金計画を立てること。結果営業収支がプラスになり、例え元金の2%でも借金を減らすこと。元金の2%返済は50年で借金を返せることになる。銀行に返済条件の見直しを交渉すること。 (2)銀行の返済条件交渉にあたっては、借入金を以下の4種類に分類する。
以上の返済条件交渉でのデメリットは (1)今後一切の融資が不可能であり、完全な無借金経営が求められる。 (2)売掛金、工場等の差し押さえ等で倒産する場合もあり得る。 (3)入金は即返済にまわされるので、入金口座は借入銀行以外で行う必要がある。 (4)第三者保証人である代表取締役の連帯保証が入っており、廃業・倒産もそうであるが自宅の任意売却や競売はあり得る。(自宅ローンの残債や評価額等も関係する) 3. いつ条件変更をするか
4.過去の借入が多額であり、営業収支もマイナスでありプラスに出来ることも難しい場合 営業収支が大きく赤字であり、改善する見込みのない会社は即廃業の準備すべきです。 この場合、絶対にしてはならない行為とは、 (1)家族・親族・友人からの借金…会社を失うだけではなく、人間関係も失う。 (2)マチ金等の高利貸しからの借入…金融機関だけなら自己破産せず、やり直せる可能性が残されているが、これらの借入先は取り立てがあこぎなため、自己破産をしたり、夜逃げをしなくてはならないことに至る。 (3)増資や私募債等による資金調達…事業再生が出来なければ、詐欺行為として訴えられる可能性がある。 真の経営者とは、上記のような目先ばかりを追わず、大局を見据え、第三者の客観的アドバイスを参考に、経営、資金の先行判断が求められます。 「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」けだし名言です。会社や自宅や物に執着せず、一切を捨てる覚悟で経営再建に取り組めば、一途の光がさすこともあります。
まず個人事業の場合、決算期は12月と決められており、一年間の事業結果に基き3月15日までに確定申告を行ないます。一方、法人の場合は決算期を自由に決めることができ、会社設立時の決定事項の一つになっています。日本の法人の決算期について、近年の国税庁の資料を見ますと下記のように、3月が21%と断トツに多く、次いで9月、6月、12月と4半期決算時期が多いようです。一番少ないのは、11月決算1月申告のようで、慌ただしい暮れの時期を避けたいとのことでしょうか? これが資本金100億円以上の大企業になると、3月決算が80%、12月決算が9.4%にもなり、両月で99.4%と集中しています。このように日本では3月決算が主流ですが、単純に「右にならえ」でよいのでしょうか。会社の資金面、経営面と節税対策を考慮しながら、決算月を決めたいものです。 平成17年3月31日現在の全国法人決算期別データ(国税庁)
1.決算期を決める上で考慮すべきことは?
2.決算期は、そんなに簡単に変えることができるのか? −意外に簡単、決算時期の変更 簡単に変更できます。株式会社であれば株主総会を開いて議決権の半数以上を持つ株主が出席して、3分の2以上の議決権を持つ株主の賛成があれば変更できます。有限会社の場合は、社員総会を開いて半数以上の社員が出席して、4分の3以上の議決権を持つ社員の賛成があれば変更できます。実務的には、以上の議事録を作成することが必要です。 3.税務署にはどのように届出るのか? 申告書と同封で移動変更届を忘れずに 異動届出書に決算期を変更する旨を記載して、株式会社の場合は株主総会議事録、旧有限会社の場合は社員総会議事録を添付して届出ます。顧問税理士にご相談ください。
法人税・所得税の改正 わが国のファイナンス・リース取引のほとんどが「所有権移転外リース取引」(中途解約不能・フルペイアウトのリース)ですが、リース会計基準の改正に合せて、法人税と所得税の規定が改正になりました。平成20年4月1日以後に契約するリース取引から適用となります。 法人税法上、所有権移転外リース取引を行った場合は、全て売買があったものとして取り扱われ、リース資産の減価償却費は、「リース期間定額法」(下記計算式)により計算した額を限度として損金算入が認められます。但し、明細書の添付が必要です。
上記にかかわらず、実務への配慮から、所有権移転外リース取引を賃貸借として損金経理することも認められます。損金経理した賃借料は減価償却した金額に含まれるため、リース料がリース期間の経過に比例して発生するのであれば、原則として申告調整は不要であり、明細書の添付も必要がありません。従って、改正前と変わらない処理が出来ることになります。 消費税の取扱い 賃貸借処理を採用した場合に注意すべきは、消費税の仕入税額控除について従前のような課税期間ごとにリース料に係る消費税の控除が出来なくなった事です。 所得税・法人税の改正に伴いリース取引は売買として取扱われるため、仕入控除はリース物件の引渡し時に一括して控除しなければならないと解されています。 そこで、これに対応して次のような会計処理を行う必要があります。
その他の重要な税制改正 中小企業の事業承継税制 平成20年10月以降の相続から適用になる予定ですが、非上場会社の株式(いわゆる自社株)を相続した場合における相続税の納税が優遇されます。現在の税制では、自社株については相続税評価額から一定の要件で10%減額されるにすぎません。売るに売れず、多額な相続税の支払いが発生することもあって、自社株の評価引き下げ対策、納税資金対策等が必要でした。これが平成20年10月以降の相続から、後継者が自社株を相続する場合には、次の要件のもとに、相続税評価額のうち80%相当の相続税の納税が猶予される予定です。ここで注意したいのは、あくまで納税の猶予ですから、相続した後に要件を満たさなくなったら、さかのぼって納税しなくてはなりません。現状では事業承継対策の大きな柱は生前に自社株を後継者に贈与することになっていますが、これによって別の選択肢が増えることになりました。 【主な要件】 (1)対象となる会社は、中小企業で (2)被相続人と同族関係者で会社の株を50%超保有し、かつ筆頭株主であり、 (3)相続後5年間の事業継続し、代表者であり、雇用の8割以上を維持し、相続した株式を保有すること。 細かい取り扱いは今後決められますので顧問税理士とご相談の上慎重に事業承継対策をされる必要があります。 上場株式等の譲渡、配当の税金 上場株式等の譲渡の税金と配当の税金は、原則20%の源泉徴収税ですが、現在10%の税率となっていますが、これは今年も継続されます。平成21年、22年も一定の制限(譲渡の場合は500万円までの譲渡所得、それを超えると20%の税率)はありますが、10%の税率が特例で適用できます。 平成21年からは、上場株式等の譲渡損失と配当所得の損益通算ができるようになります。株の損を配当と相殺することにより税金が安くなります。今後配当については確定申告を行うことにより節税になるケースもあります。 少額減価償却資産の一括損金化 取得価額が30万円未満の減価償却資産を損金に計上(300万円を上限)できる特例は、2年間延長されました。
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