有価証券譲渡益の計上漏れはないと判断して、原処分を取り消す判決
いわゆる特例民法法人から一般財団法人へと移行した法人の確定申告を巡って、有価証券譲渡益の計上漏れを理由とする更正処分等の適法性が争われた事件で東京地裁(鎌野真敬裁判長)は、有価証券の譲渡利益又は譲渡損失の額は各譲渡有価証券譲渡対価額から移行前取得価額を控除した額になるものの、更正処分等は各譲渡有価証券譲渡対価額から各譲渡有価証券処理後価額を控除した額をもって譲渡利益又は譲渡損失の額としたものであるから、その点において違法であると判示、原処分庁側の主張を斥けた。
この事件はある寺の伝承の文化等を興隆する事業を行い、広く国民の教化善導を図ること等を目的とする一般財団法人が法人税、復興特別法人税及び地方法人税の確定申告をしたところ、原処分庁が有価証券譲渡益の計上漏れを理由とする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしてきたことから、法人側がその取消しを求めて提訴したという事案である。
法人側は、各譲渡有価証券のうち、各譲渡有価証券譲渡対価額の対価をもって譲渡し、又はその償還を受ける一方で、時価に基づく評価損の計上後は、 譲渡又は償還までの間に各譲渡有価証券の帳簿価額が変動したことはなく、各譲渡有価証券と同一の銘柄の有価証券を取得したこともなかったため、各譲渡等の時点における各譲渡有価証券の帳簿価額は各譲渡有価証券処理後価額であったという事情にあった。
そこで原処分庁側は、各譲渡有価証券処理後価額と各譲渡有価証券譲渡対価額との差額をもって各譲渡有価証券の譲渡損益とすべきであったにもかかわらず、確定申告においては移行前取得価額と各譲渡有価証券譲渡対価額との差額をもって譲渡損益とされているから、各譲渡有価証券処理後価額と移行前取得価額との差額に相当する金額の譲渡損益の計上漏れがあると主張して更正処分等の適法性を訴えたわけだ。
判決はまず、法人税法施行令119条の2第1項1号の文言に触れ、同号が定める取得について、公益法人等が非収益事業に属する資産として有価証券を取得する場合がこれに含まれないと限定的に解釈すべき文言上の根拠は見当たらないなどと述べて、原処分庁側の主張を否定。その上で、各譲渡有価証券に係る譲渡原価の額は移行前取得価額であり、譲渡利益又は譲渡損失の額は各譲渡有価証券譲渡対価額から移行前取得価額を控除した額、すなわち法人側が主張する譲渡利益額又は譲渡損失額になると指摘した。
したがって、これらの金額をもって譲渡利益又は譲渡損失の額とした確定申告はこの点においては誤りがなく、これに反して、更正処分等は各譲渡有価証券譲渡対価額から各譲渡有価証券処理後価額を控除した額をもって譲渡利益又は譲渡損失の額としたものであるからその点において違法であると判示して、原処分を取り消す旨の判決を言い渡した。
(2023.02.17東京地裁判決、令和元年(行ウ)第539号)
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