資産負債増減法による推計は妥当なものの資産認定に誤り指摘
原処分庁が用いた資産負債増減法による事業所得の推計方法を巡って、調査手続きの違法性、また推計の必要性及び合理性の有無の判断が争われた事件で国税不服審判所は、資産負債増減法による推計方法には合理性が認められるものの、純資産の増加額の算定に際して基礎とした資産の認定に一部誤りがあると判断して、原処分の一部を取り消した。
この事件は、魚のあらの回収を業とする個人事業者(審査請求人)の所得税等について、原処分庁が事業所得の金額を推計の方法により算定し直して更正処分等をしてきたことから、請求人側が調査手続きに違法又は不当があり、また推計の必要性及び合理性がないなどと主張して、原処分の全部取消しを求めて審査請求したという事案である。
原処分庁側は、請求人の事業所得を算定するに当たって採用した資産負債増減法において、請求人の子名義の普通預金口座から引き出された金銭によって請求人名義の定期預金口座が開設されたとの事実を裏付ける証拠はないことから、減算調整項目(事業外所得)として減算すべき金額はない旨主張して、審査請求の棄却を求めたわけだ。
これに対して裁決は、資産負債増減法による推計方法には合理性が認められるとしたものの、子名義の普通預金口座から合計2,000,000円が引き出された翌日に同額が請求人名義の定期預金口座に入金されたこと、また普通預金口座に係る通帳等を同居人が管理していること、さらに普通預金口座から引き出された2,000,000円が請求人名義の定期預金口座への入金以外に充てられたことをうかがわせる事情がないことなどから判断すれば、請求人名義の定期預金口座に入金された金銭は普通預金口座から引き出された金銭を原資とするものであり、純資産の増加額の算定に際して基礎とされた資産の認定に一部誤りがあることを理由に事業所得を原資とするものであるとはいえないと認定、原処分の一部を取り消した。
つまり、原処分庁が用いた資産負債増減法による推計において、請求人名義の預金口座への入金額の一部は、子名義の預金口座から引き出された金銭を原資とするものであり、請求人の事業所得を原資とするものではないことから、純資産の増加額とは認められないと認定したことがポイントになった事例である。
(2021.08.04 国税不服審判所裁決)
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