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岸田首相 賃上げ税制に意欲 実績なく限界説も

 岸田文雄首相が、賃上げを行った企業を税制面で優遇する「賃上げ税制」を強化する方針を示している。賃上げにより「分配」機能を強化したい考え。しかし、効果的な制度設計にするのは容易ではなさそうだ。
 賃上げを実施した企業への法人税優遇施策自体は、安倍晋三政権時代の2013年度から実施されている。大企業の場合、新規採用者の給与支給総額が前年度から2%以上増加すれば、その総額の15%分が法人税額から控除される。中小企業は、全従業員への給与の支給総額が同1.5%以上増えれば、増加額の15%分を税額控除できる。上乗せ要件として、教育訓練費の額を一定以上増やすなどすれば、控除率は大企業20%、中小25%となる。
 一方で、現行の税制には大きな効果があったとは言いがたい。赤字経営の場合はそもそも法人税を納める必要がないため、中小・零細企業のうち約6割を占める赤字経営の企業にとっては制度を使うメリットがなく、賃上げ税制の恩恵は大企業など一部の優良企業にとどまっている。また、「給与支給総額」が基準とされているため、一部の人の支給額アップや、ボーナスなど一時金で総額を一時的に膨らませることも可能なことから、必ずしも一人ひとりの給与を引き上げることにはつながっていない。
 今後、控除率の大幅な引き上げや、制度適用基準を「支給総額」から「基本給」に変更することなど、制度の詳細が検討されることになる。年末の与党の税制調査会でも大きなテーマとなる見通しだ。
 一方で、税制による賃上げには限界があるとの指摘もある。定期昇給やベースアップで従業員の給与水準を引き上げた場合、年金や社会保険料なども増加するため企業にとっては負担が重くなる。コロナ禍で経済の先行き不安が渦巻く中で、税制優遇があったとしても賃上げは容易ではなく、企業にとっては先行きを見通せるような経済状況となることが何よりも重要だ。

提供元:エヌピー通信社

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 岸田文雄首相が、賃上げを行った企業を税制面で優遇する「賃上げ税制」を強化する方針を示している。賃上げにより「分配」機能を強化したい考え。しかし、効果的な制度設計にするのは容易ではなさそうだ。 賃上げを実施した企業への法人税優遇施策自体は、安倍晋三政権時代の2013年度から実施されている。大企業の場合、新規採用者の給与支給総額が前年度から2%以上増加すれば、その総額の15%分が法人税額から控除される。中小企業は、全従業員への給与の支給総額が同1.5%以上増えれば、増加額の15%分を税額控除できる。上乗せ要件として、教育訓練費の額を一定以上増やすなどすれば、控除率は大企業20%、中小25%となる。 一方で、現行の税制には大きな効果があったとは言いがたい。赤字経営の場合はそもそも法人税を納める必要がないため、中小・零細企業のうち約6割を占める赤字経営の企業にとっては制度を使うメリットがなく、賃上げ税制の恩恵は大企業など一部の優良企業にとどまっている。また、「給与支給総額」が基準とされているため、一部の人の支給額アップや、ボーナスなど一時金で総額を一時的に膨らませることも可能なことから、必ずしも一人ひとりの給与を引き上げることにはつながっていない。 今後、控除率の大幅な引き上げや、制度適用基準を「支給総額」から「基本給」に変更することなど、制度の詳細が検討されることになる。年末の与党の税制調査会でも大きなテーマとなる見通しだ。 一方で、税制による賃上げには限界があるとの指摘もある。定期昇給やベースアップで従業員の給与水準を引き上げた場合、年金や社会保険料なども増加するため企業にとっては負担が重くなる。コロナ禍で経済の先行き不安が渦巻く中で、税制優遇があったとしても賃上げは容易ではなく、企業にとっては先行きを見通せるような経済状況となることが何よりも重要だ。提供元:エヌピー通信社
2021.10.21 16:25:09