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どう軌道修正する? 空振りに終わった納税猶予特例 4月までは"静観"の姿勢か

 新型コロナウイルス対応で導入された無利子無担保の納税猶予の特例制度が、予定通り2月1日で申請を締め切られた。今後は担保と延滞税を必要とする通常の納税猶予制度のみとなる。利用実績は財務省の想定額の1割強に低迷していることも明らかになり、空振りの気配が漂う支援策をどう軌道修正するのか、政府・与党は頭を悩ませている。
 納税猶予の特例は2020年4月の緊急経済対策に盛り込まれた。20年2月以降、収入が1カ月間以上にわたり前年同期比2割以上減少した個人や企業が対象で、ほぼすべての税目に適用された。猶予を認める条件になっている担保や延滞税も不要で、企業にとって手厚い支援だ。
 しかし財務省が当初、総額10兆円程度の猶予を見込んでいたのと裏腹に、20年末までに許可された特例の利用実績(国税分)は、昨年12月までで28万1348件、適用税額は1兆2731億円にとどまった。税目別では「消費税および地方消費税」が半数以上の57.8%を占めて7499億8900万円と最も多く、法人税3804億3900万円、所得税が1011億400万円と続いた。申請は21年に入っても低調なままで、2月1日に締め切られた。
 足元を見ると、1月に緊急事態宣言が再発令され、自民党の下村博文政調会長は追加の経済対策の必要性を表明。検討事項には「納税や社会保険料の猶予」も含まれた。昨年末の税制改正論議で、特例の延長を求める声が一部にあったことから例示したとみられる。
 ただ、ある与党税調幹部は、事業者側の「預かり金」である消費税と源泉所得税で利用件数が多かったことや、そもそも当初想定より利用件数が少なかったことなどを挙げ、「特例は効果的ではなかった」と指摘した。特例の扱いについては昨年末までに決着済みとの立場だ。
 もともと特例措置が企業のニーズに合っているか、危ぶむ声が多かったこともある。政府は猶予制度と並行し、金融機関を介した企業や個人事業主向けの実質無利子・無担保の融資を拡充した。1年間の猶予後には、翌年分と二重払いになる事業者もあり、財務省は「当面の資金繰りには融資金を回し、税金は翌年分と二重払いになる負担を避けるために無理をしても支払っておくケースが多かったはず。施策の効果は限定的だった」と分析する。コロナ禍で資金繰りに苦しむ企業のほとんどが赤字のため、そもそも納税する必要がないことも要因とみられる。
 結果として21年度の税制改正で猶予措置の延長は見送られた。与党の税調幹部間では再導入を検討しようとする動きがあるが、財務省幹部は政権幹部を訪ね「延長は不要」と刷り込みに必死だ。また21年度税制改正大綱に基づく税法改正案の国会審議はこれから本格化することもあり、野党に追及材料を提供しかねないという警戒感が与党にはある。
 感染状況も最悪期を脱しつつあり、3月末の法案成立時期まで、目立つ動きは出てこないとの見方が大勢だ。


提供元:エヌピー通信社

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 新型コロナウイルス対応で導入された無利子無担保の納税猶予の特例制度が、予定通り2月1日で申請を締め切られた。今後は担保と延滞税を必要とする通常の納税猶予制度のみとなる。利用実績は財務省の想定額の1割強に低迷していることも明らかになり、空振りの気配が漂う支援策をどう軌道修正するのか、政府・与党は頭を悩ませている。 納税猶予の特例は2020年4月の緊急経済対策に盛り込まれた。20年2月以降、収入が1カ月間以上にわたり前年同期比2割以上減少した個人や企業が対象で、ほぼすべての税目に適用された。猶予を認める条件になっている担保や延滞税も不要で、企業にとって手厚い支援だ。 しかし財務省が当初、総額10兆円程度の猶予を見込んでいたのと裏腹に、20年末までに許可された特例の利用実績(国税分)は、昨年12月までで28万1348件、適用税額は1兆2731億円にとどまった。税目別では「消費税および地方消費税」が半数以上の57.8%を占めて7499億8900万円と最も多く、法人税3804億3900万円、所得税が1011億400万円と続いた。申請は21年に入っても低調なままで、2月1日に締め切られた。 足元を見ると、1月に緊急事態宣言が再発令され、自民党の下村博文政調会長は追加の経済対策の必要性を表明。検討事項には「納税や社会保険料の猶予」も含まれた。昨年末の税制改正論議で、特例の延長を求める声が一部にあったことから例示したとみられる。 ただ、ある与党税調幹部は、事業者側の「預かり金」である消費税と源泉所得税で利用件数が多かったことや、そもそも当初想定より利用件数が少なかったことなどを挙げ、「特例は効果的ではなかった」と指摘した。特例の扱いについては昨年末までに決着済みとの立場だ。 もともと特例措置が企業のニーズに合っているか、危ぶむ声が多かったこともある。政府は猶予制度と並行し、金融機関を介した企業や個人事業主向けの実質無利子・無担保の融資を拡充した。1年間の猶予後には、翌年分と二重払いになる事業者もあり、財務省は「当面の資金繰りには融資金を回し、税金は翌年分と二重払いになる負担を避けるために無理をしても支払っておくケースが多かったはず。施策の効果は限定的だった」と分析する。コロナ禍で資金繰りに苦しむ企業のほとんどが赤字のため、そもそも納税する必要がないことも要因とみられる。 結果として21年度の税制改正で猶予措置の延長は見送られた。与党の税調幹部間では再導入を検討しようとする動きがあるが、財務省幹部は政権幹部を訪ね「延長は不要」と刷り込みに必死だ。また21年度税制改正大綱に基づく税法改正案の国会審議はこれから本格化することもあり、野党に追及材料を提供しかねないという警戒感が与党にはある。 感染状況も最悪期を脱しつつあり、3月末の法案成立時期まで、目立つ動きは出てこないとの見方が大勢だ。提供元:エヌピー通信社
2021.02.10 16:56:00