役員が横領した金員は給与には該当しないと認定、全部取消し
代表者以外の役員が横領によって取得した金員がその役員への給与等に該当するか否かの判断が争われた事件で国税不服審判所は、役員が法人経営の実権を掌握し、実質的に支配していたとは認められないことからその役員に対する給与等には該当しないと判断して、源泉所得税等の納税告知処分等を全部取り消した。
この事件は、生鮮魚、海産物の販売及び加工業を営む法人の取締役が法人から不正に取得した金員に対し、原処分庁がその取締役に対する給与と認定、その法人に対して源泉所得税及び復興特別所得税の納税告知処分並びに重加算税の賦課決定処分をしたことが発端で、請求人側がその金員は取締役が法人の意思に反して横領したものであり、給与ではないなどと主張して、原処分の全部取消しを求めて審査請求したという事案である。
ちなみに、同法人の役員は代表取締役と代表取締役の実弟である取締役の2人のみであり、取締役専務の肩書きの使用を許されているという事情にあった。そこで原処分庁側は、その取締役が法人から不正に取得した金員は、その役員が1)法人の業務において影響力を有していたと認められること、及び2)経理業務の重要な部分を任されていたと認められることを踏まえれば、その地位に基づいて支給されたものであるから、所得税法28条1項に規定する給与等に該当する旨主張して、審査請求の棄却を求めたわけだ。
しかし裁決は、横領行為をした役員は、法律上、法人の業務執行等を決定する地位にあったとは認められず、事実上もそのような地位にあったことを認めるに足りる証拠はないことから、横領行為をした役員が法人の業務において影響力を有していたとは認められないと認定。さらに、横領行為をした役員の職務内容に関する申述などからは、経理業務の重要な部分を任されていたとは認められないとも認定した。
そうした事実認定の結果、横領行為をした役員が法人の経営の実権を掌握し、実質的に支配していたとは認められないため、役員の地位及び権限に基づいて法人から金員を得たものとも認められず、その金員は法人が横領行為をした役員に支給した給与等には該当しないと判断して、原処分の全部を取り消している。
(2018.05.07国税不服審判所裁決)
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