差押処分の前に動産の引渡しを受けていたと認定、全部取消し
原処分庁に差し押さえられた動産が差押処分の時点で既に第三者へ譲渡されていたか否かの判断が争われた事件で国税不服審判所は、審査請求人が差押処分の前に占有改定によって動産の引渡しを受けていたと認定した上で、原処分庁の主張は採用できないと否定、差押処分を全部取り消す旨の裁決を言い渡した。
この事件は、原処分庁が滞納国税の徴収のために、滞納法人が運営していた教室に設置されていた動産を差し押さえたため、請求人側が差し押さえられた動産は差押えが行われた時点において既に請求人の所有になっていて、滞納法人に帰属する財産ではないことから、差押処分は違法、無効と主張、原処分の全部取消しを求めて審査請求したもの。つまり、差押処分の前に各動産の引渡しを請求人が受けていたか否かが争点になった事案である。
原処分庁側は、請求人と滞納法人との間における合意書には、建物の占有移転に係る記載はあるものの、建物内にあった各動産の占有移転に係る記載がなく、動産に対する差押処分時に、請求人の所有物であったことを第三者が知り得るような明示もされていなかったことから、占有改定の合意があったとはいえないと指摘。また、建物の賃貸人は滞納法人が建物の賃借人であると認識していたことからしても、請求人は動産の引渡しを受けていない旨主張して、審査請求の棄却を求めたわけだ。
裁決はまず、動産の引渡しには第三者が知り得るような明示を必要とする民法の条文や判例は見当たらないと指摘。また、関係者への影響を最小限にすべく、事業の承継に必要な建物と動産を請求人に承継させることを企図していたことからすれば、その企図に反して動産のみの占有を移転しないとは考えにくく、合意書にその旨が明示的に記載されていなくとも、建物内に存する動産の移転に合意し、動産が現実に引き渡されるまでは動産を請求人のために占有することに合意したものと解すべきであるとも判断。
結局、動産の引渡し(占有改定)は請求人及び滞納法人間でできるものであって、その認定が賃貸人の認識により左右されるものではないことからしても、差押処分の前に占有改定によって請求人が動産の引渡しを受けていたと認定、原処分の全部を取り消した。
(2017.10.18国税不服審判所裁決)
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