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分掌変更に伴う役員退職給与の分割支給も要件満たせば損金算入は可能と判決

 分掌変更に伴う役員退職給与を支給する場合に、その退職給与を分割支給し、別の年度の損金として処理をすることが認められるか否かの判断が争われた事件で東京地裁(増田稔裁判長)は、退職所得をめぐる退職基因要件、労務対価要件、一時金要件のいずれをも満たしていることから、退職により一時に受ける給与と同一に取り扱うのが相当と判断、法人側の主張を認容する判決を言い渡した。

 この事件は、創業者の役員が代表取締役を辞任して非常勤役員となったことに伴って退職慰労金の支給額を決定し、その半額を役員に支払ったことから損金に算入するとともに、退職所得に該当することを前提にした源泉所得税を納付したのが発端。これに対して原処分庁が、退職給与には該当しないと損金算入を否認して更正処分をするとともに、退職所得ではなく賞与であることを前提に計算された源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をしてきたため、法人側が各更正処分等の取消しを求めるとともに、源泉所得税に係る納付金等の返還を求めて提訴したという事案である。

 原処分庁側は、総会の議事録の作成状況や供述の変遷等を理由に、法人の株主総会において役員退職給与の支給自体や金額及び支給時期等が決議されたとは認められないなどと主張して、棄却を求めた。役員に支払われた金員が、1)退職基因要件を満たしているか否か、2)労務対価要件を満たしているか否か、3)一時金要件を満たしているか否かが争点になった事案であるが、要するに、役員退職給与に該当するか否か、支払った金額の損金算入が認められるか否かにあったわけだ。

 判決はまず、最高裁昭和58年9月9日判決を引用して、退職所得の該当性に係る基準を掲げて判断している。具体的には、1)退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること(つまり退職基因要件)、2)従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること(つまり労務対価要件)、3)一時金として支払われること(つまり一時金要件)の要件を満たしているか否かにあるが、実質的にこれらの要件を満たすものであれば、退職により一時に受ける給与と同一に取り扱うことが相当であるという判断を示した上で、法人側はいずれの要件も満たしていると認定。

 また、原処分庁側は、分割支給は利益調整を意図したものであるとも主張したが、企業が資金繰りに支障を来さないように、役員退職給与を分割支給すること自体は企業経営上の判断として合理的であると判断して、この主張も斥けている。

(2015.02.26東京地裁判決、平成24年(行ウ)第592号)

提供元:21C・TFフォーラム(株式会社タックス・コム)



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2018.07.05 18:27:06