タックスヘイブン対策20%のトリガー税率を廃止へ海外子会社の課税強化
カテゴリ:01.週刊NP 
作成日:09/23/2016  提供元:エヌピー通信社



 タックスヘイブンと呼ばれる低税率の国や地域を利用した税逃れを防ぐため、政府は海外にある子会社への課税を強化する方向で調整に入った。法人税率が20%未満の国に限定して適用していたタックスヘイブン対策税制を、日本の法人実効税率より低いすべての国に拡大する。検討を進めた上で、早ければ年末にまとめる17年度税制改正大綱に盛り込む方針だ。

 タックスヘイブン対策税制は、税率の低い国や地域に実体のない会社をつくる企業に対して過度な節税を防ぐことを目的とし、1978年に創設されたものだ。海外子会社の所得は通常、日本では課税されないが、法人税率が過度に低い国や、法人税のない国に子会社を設立し、その子会社に事業の実体がないと判断されたときには、親会社の所得と合算して日本の法人税率で課税されることとなる。課税するかどうかの基準となる「トリガー税率」は2010年度税制改正で25%以下から20%以下に引き下げられ、15年度改正で20%以下から20%未満に再度引き下げられている。

 近年、世界的に法人減税の流れが進んでいることから、「過度な低税率」の基準も変わり、10年度改正でのトリガー税率引き下げはそれに対応するものだった。しかしその後も世界的な法人税率引き下げの流れは止まらず、13年1月からはタイで法人税率が20%に、15年4月からはイギリスの法人税率が20%になった。それまでの20%以下基準ではイギリスやタイへ進出している企業はタックスヘイブン対策税制の対象となり、特に保険を売買するイギリスのロイズ市場に参加する企業への影響が大きいことから、15年度改正では20%未満が新基準となった。

 しかし今年6月に行った国民投票でEU離脱の結論が出たことからイギリスは、経済を活性化させるために法人税率を15%まで引き下げることを検討している。法人税の低税率化が世界的に進むなか、タックスヘイブン対策税制の発動基準となる税率をたびたび見直すのは不合理との声もあったことから、政府はついにトリガー税率撤廃に踏み切った形だ。パナマの法律事務所から租税回避に関与する顧客のリストが流出した「パナマ文書」問題で多国籍企業の税逃れに対する視線が厳しくなっていることも、経済界からの反発を招きにくいタイミングと判断する理由となったようだ。

 新たな基準では、日本の法人実効税率(29・97%)以下のすべての国が対象となり、現在対象外のオランダ(法人税率25%)や韓国(同24%)が対象に加わることになる。それらの国に事業展開している企業の事務負担が大きく増すことから、経済界からは大きな反発が予想されるところだ。