遺言控除〝争族〟防止効果に疑問符「ただの減税ではダメ」
カテゴリ:01.週刊NP 
作成日:07/17/2015  提供元:エヌピー通信社



 自民党内で浮上した、遺言に基づいて相続がされた場合に相続税の基礎控除額に上乗せして一定額を控除する「遺言控除」を設ける案について、疑問の声が上がっている。遺言に基づく相続を促進することで相続争いを防止するのが狙いだが、新たな控除の上乗せは減税となるうえ、防止効果自体を疑問視する向きもあり、実現へのハードルは高そうだ。
 
 遺言控除は自民党の「家族の絆を守る特命委員会」(委員長・古川俊治参院議員)が8日に開いた会合で、葉梨康弘法務副大臣が「役所としての公的な立場ではなく衆院議員」として提唱した。古川氏によると、出席議員からは肯定的な意見が相次いだという。
 
 遺言には、自筆の遺言書などのほか、公証人が遺言を残したい人の話を筆記して作成する「公正証書遺言」がある。公正証書遺言は公文書で、自筆よりも不備などの恐れが低い。作成件数は増加傾向にあり、2014年は年間10万件を突破した。作成手数料は遺産額に応じて決まり、例えば3000万~5000万円の場合は相続人1人当たり2万9000円。「公正証書遺言は一番客観性が高いがお金がかかる。何らかの税制上の措置があってもいい」というのが特命委会合で出た遺言控除を支持する理由だ。
 
 しかし司法統計によると、2013年に発生した遺産分割事件の75%が遺産額5000万円以下のケースだった。当時、相続税の基礎控除額は「5000万円+1000万円×法定相続人」で、相続税を伴う相続争いは全体の25%以下にとどまる計算だ。基礎控除は今年から「3000万円+600万×法定相続人」に引き下げられたとはいえ、遺言控除の新設が相続争い対策として効率的かどうか疑問符が付きかねない。財務省幹部も「紛争防止効果と関係なく減税することになってはいけない」と警戒している。