「決算短信」簡素化に向け動き財界は歓迎、投資家からは不安の声
カテゴリ:01.週刊NP 
作成日:03/11/2016  提供元:エヌピー通信社



 政府は、企業が投資家などに業績を開示する「決算短信」の記載項目の見直しを進めている。欧米に比べて日本は開示項目が多く、企業の事務負担が重いとの指摘もあり、内容を大幅に減らす案が検討されている。ただ、決算短信から得られる情報量が減ることに反発も上がっており、見直しの方向性は現時点で流動的だ。

 金融庁が進めている有識者会議で東京証券取引所が示した見直し案によると、企業の資産や借金の状況を示す一部項目や経営方針のほか、経営が行き詰まり倒産の恐れがあることなどを示す「継続企業の前提に関する重要事象等」などを開示対象から外す。経営や財政状態の分析は概況のみ記載すればよいこととし、売上高や営業利益などの業績概要はこれまで通りとする。

 実現すれば企業の負担が大幅に減る見通しで、財界からは「歓迎する」(経団連金融・資本市場委員会企業会計部会長代行の逆瀬重郎日立製作所財務統括本部顧問)との声が上がる。監査法人の負担を減らし、監査の質を高める効果も期待されている。
 一方、決算短信の開示対象から省かれた情報は、有価証券報告書に記載する。ただ、開示期限が決算短信は決算期末から45日以内であるのに対し、有価証券報告書は3カ月以内。投資家らが決算短信から早めに得られる経営情報は、現在よりも限られることになる。

 こうした見直しの方向性に対し、市場からは「開示される情報が減ることで企業の経営分析に影響が出かねない」(みずほ証券の熊谷五郎上級研究員)と慎重な対応を求める声が上がっている。

 政府は、情報開示の簡略化で企業の事務負担を減らし、ビジネス環境を改善することで国内に投資を呼び込む成長戦略を掲げる一方、株主との関わりを重視したコーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化も打ち出している。両者のバランスが改めて問われそうだ。