保険経費問題 分かれた福岡高裁判決
カテゴリ:01.週刊NP 
作成日:01/14/2011  提供元:エヌピー通信社



 養老保険の全額損金プランをめぐる裁判で、司法判断が真っ二つに分かれた。満期保険金の一時所得の計算上控除できる必要経費の範囲が争われた裁判で、福岡高裁はさきごろ「会社負担分の保険料は含まれない」として国側の逆転勝訴判決を下した。同種の裁判では一昨年に同じ福岡高裁が納税者勝訴の判決を下し、現在、最高裁の“決定打”が待たれているという局面だけに、今回の高裁判決は各方面に大きな衝撃を与えている。

 所得税法34条2項(以下「法34条2項」)は、一時所得の計算に際して「その収入を得るために支出した金額」を経費として引くことができる旨を定めている。そして所得税法施行令183条2項2号(以下「令183条2項」)では、「生命保険契約に係る保険料の総額は、一時所得の計算上、支出した金額に算入する」と定めており、ここでいう「保険料の総額」については所得税法基本通達34-4(以下「通達34-4」)で「その一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者以外の者が負担した保険料も含まれる」としている。

 今回の福岡高裁判決(平成22年(行コ)第12号)では、法34条2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」について、「文理解釈としても、同項が『支出された』ではなく『支出した』と規定しているのは、『その収入を得』た者と『支出した』者とが同一人であることを前提としていると解するのが自然」とし、「これを修正する特段の理由がない限り、一時所得の所得者本人が負担した金額に限られ、それ以外の者が負担した金額は含まれないと解するのが相当」と判断。法34条2項の細則として定められた令183条2項についても、「同法の解釈を踏まえるべき」とし、「所得概念の本質的要素」「所得税法の根幹をなす基本原則を構成するもの」という大前提論から足場を固めている。

 通達34-4の解釈に当たっては、「保険金の支払いを受ける者以外の者が負担した保険料の額も控除することができるかのようだが、このような解釈は所得税法の根幹をなす基本原則に抵触する疑いがあるといわざるを得ない」として大前提論をフル稼働。さらに「通達は行政機関内部の規範にすぎず、国民に対して拘束力を有する法規ではない」「租税法律主義の下では、法律の定めに違反する通達は効力を有しない」として通達の効力を封じている。

 ちなみに、同通達については注意書きに関する解釈論もある。注意書きでは「使用者が負担した保険料で36-32により給与等として課税されなかったものの額は、令183条2項2号に規定する保険料の総額に含まれる」とされている。ここでいう「36-32」とは、使用者が負担する保険料が月額300円以下の場合は非課税とする旨を規定する「所得税基本通達36-32」のこと。給与課税されていない少額非課税の保険料について、あえて「保険料の総額に含まれる」とする注意書きが置かれた趣旨について、福岡高裁は「所定の金額が給与課税されていることを前提とするもの」と解釈している。