元代表者に対する貸付金の改修は不能と判示、原処分を全部取消し
カテゴリ:01.法人税 裁決・判例
作成日:05/27/2014  提供元:21C・TFフォーラム



 同族会社が行った元代表取締役に対する貸付金(金銭債権)の貸倒処理の適否が争われた事件で、東京地裁(川神裕裁判長)は、貸倒処理をした事業年度において、代表取締役が返済に供せる程度の資産を有しておらず、貸付金等の全額が回収不能になっていたと認定した上で、貸付金相当額の損金計上を認める旨の判決を言い渡した。

 この事件は、同族会社が元代表取締役に対する貸付金の回収は不可能と判断、4億円弱の貸倒損失を計上して申告したところ、原処分庁が申告内容を否認して更正処分等をしてきたため、確定申告額を上回る部分の更正処分の取消しを求めて提訴されたもの。貸倒損失の有無及びその金額が争点だが、同族会社による金融機関からの融資を通じた返済が代位弁済に該当するか、保証債務の代位行使は可能か否かの判断も問われた事案である。

 同族会社が金融機関からの融資を元代表者の口座に振り込み、その金銭で借入金の返済をさせたり、経営権の委譲を目的に株式を同族関係者に贈与した事実から、原処分庁は回収が可能と判断した模様だ。そこで、同族会社が元代表者に有していた貸付金等の額を確定した上で、元代表者の口座に入金した金銭で返済に充てさせたのは代位弁済に当たると指摘するとともに、同族会社には保証債権の行使の事実がなく、行使すれば貸付金の回収は可能であるという判断から、貸付金の全額が回収不能にはなっていないと反論した。

 しかし判決は、事実認定の上、同族会社による金融機関への返済という事実を欠いている以上、代位弁済と認めることはできないと指摘。その上で、代位弁済の存在を前提とする原処分庁の主張には理由がなく、同族会社は借入金に係る貸付債権を代位行使することはできないと斥けた。つまり、保証債権行使の可能性を理由に、事業年度末に貸付金等の回収可能性が存在したとは認められないと判断したわけだ。

 また、同族関係者への株式の贈与も、経営権の円滑な移行、有償による取得に伴う税額の発生を考慮したもので、贈与の選択も格別不自然とは言い難いとも指摘。結局、元代表者は貸付金等の返済に供せる程の資産を有していなかったと認定した上で、事業年度末時点において全額が回収不能となっていたことが認められると判示、原処分側の主張を全面的に斥けている。

(2013.10.03東京地裁判決、平成24年(行ウ)第811号)