架空取引に伴う簿外資金は代表者への給与と認定、棄却
カテゴリ:01.法人税 裁決・判例
作成日:10/18/2016  提供元:21C・TFフォーラム



 架空取引に伴う簿外資金が代表者への給与等として支払われたものであるか否かの認定が争われた事件で東京地裁(舘内比佐志裁判長)は、代表者として経営の実権を握って法人を支配し、自己の権限を濫用して法人の事業活動を通じて簿外資金を利得していたことが認められることから、簿外資金は法人の資産から支出されたものであることは明らであると認定、労務又は役務の対価と評価することが妥当と判示した。

 この事件は、ダイレクトメール発送の代行等を営む法人が架空取引により簿外資金を作出した上で、代表者が簿外資金を利得したことを巡り、原処分庁が所得税法28条1項に規定する給与等と認定、源泉所得税に係る納税告知処分及び賦課決定処分をしたことが発端。そこで法人側が、代表者への簿外資金の貸付けにすぎず、給与等の支払いをしたものではない旨主張、原処分の取消しを求めて提訴したという事案である。つまり、法人側が代表者に簿外資金を給与等として支払ったものか否かの事実認定が争われた事案だ。

 これに対して判決はまず、代表者が簿外資金を利得したかどうかについては、簿外資金は法人から代表者に対して貸し付けられたものではなく、代表者が利得したものというべきであり、査察部等の対応如何によって利得したか否かの判断が左右されるものではないと指摘した上で、代表者による簿外資金の利得が法人の地位及び権限に対して受けた所得税法28条1項に規定する給与等に該当するか否かを判断した。

 その結果、最高裁判決等を引き合いに、所得税法28条1項に規定される給与所得は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付をいい、その給付には金銭のみならず金銭以外の物や経済的利益も含まれるという解釈の下に、法人の業務が代表者の指揮監督の下に行われていたという事実関係を認定、代表者が利得したものであるか否かを判断している。

 結局、法人の代表者として経営の実権を掌握して法人を実質的に支配しており、自己の権限を濫用して法人の事業活動を通じて簿外資金を利得していたということができるから、法人の代表者として提供した労務又は役務の対価として受けた給付と評価することが妥当と判示して、棄却の判決を言い渡した。

(2016.03.02東京地裁判決、平成26年(行ウ)第223号)