抵触法の行為と実質法上の行為は別と判示、意思表示の瑕疵を否定
カテゴリ:02.所得税 裁決・判例
作成日:02/05/2013  提供元:21C・TFフォーラム



 株式の譲渡が法律行為の要素の錯誤により無効又は詐欺により取り消されたことを理由に所得税の確定申告をしなかった事件をめぐって、東京地裁(川神裕裁判長)は株式に係る譲渡合意の締結の意思表示に瑕疵があるとは認められないと判断、譲渡契約の錯誤等を理由に譲渡は無かったという納税者側の主張を斥けて、原処分の取消請求を棄却した。

 この事件は、納税者が保有株式を米国法人等に譲渡する旨の合意をした後に紛争が生じたため、譲渡が不存在又は無効であるから譲渡所得は発生していないという判断の下に所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が株式に係る譲渡所得の存在を認定、所得税の更正処分及び過少申告加算税を賦課決定してきたのが発端。そこで、株式の譲渡は法律行為の要素の錯誤によって無効又は詐欺によって取り消されているのであるから、原処分庁が認定した年分に譲渡はなかったと主張、原処分の取消しを求めて提訴した事案である。

 これに対して判決は、昭和39年の最高裁判決を拠り所に、譲渡所得の収入金額の収入時期は資産の所有権等の権利が相手方に移転した時で、その収入金額は資産の所有権等の権利が相手方に移転した時の属する年分のものに算入すべきものであると解釈した。

 その解釈に沿って、原処分庁認定の年分に譲受人の外国法人の代理人が代表者に代わり譲渡合意書に署名、譲渡契約を締結する権限を付与されていたと認定するとともに、少なくとも外国法人の代表者が譲渡合意書に署名して譲渡合意の締結を追認したとも認定。また、法律行為の成立及び効力の準拠法を選択する当事者間の合意は抵触法上の行為であり、実質法上の合意である法律行為そのものとは区別されるべきと指摘した。結局、納税者が主張する錯誤及び詐欺は、実質法上の合意である法律行為そのものに関わるものでしかなく、抵触法上の合意であるその成立に意思表示の瑕疵があるとはいえないと判示して、請求を棄却している。

(東京地裁平成24年8月30日判決、平成21年(行ウ)第455号)