抵触法上の合意には瑕疵はなかったと認定、要素の錯誤を否定
カテゴリ:02.所得税 裁決・判例
作成日:01/22/2013  提供元:21C・TFフォーラム



 法律行為の要素の錯誤により無効又は詐欺により株式の譲渡が取り消された、つまり譲渡契約の錯誤等を理由に譲渡はなかったという理由から確定申告しなかった事件をめぐって東京地裁(川神裕裁判長)は、納税者側の各株式に係る譲渡合意の締結の意思表示に瑕疵はなく、原処分庁認定の年分の譲渡合意によって株式が譲渡されたと認定して納税者側の主張を否定、原処分の取消請求を棄却する判決を言い渡した。

 この事件は、納税者が米国法人等に保有株式を譲渡する旨の合意をした後、譲渡に関する紛争が発生したことを理由に、株式の譲渡が不存在又は無効となったため譲渡所得は発生していないという判断の下に株式の譲渡に係る所得を除いて申告をしたところ、原処分庁が株式に係る譲渡所得を認定、所得税の更正及び過少申告加算税を賦課決定してきたのが発端になったもの。そこで納税者側が、要素の錯誤によって株式の譲渡は無効又は詐欺によって取り消されたため譲渡はなかったと反論、その取消しを求めて提訴した事案だ。

 判決は、昭和39年の最高裁判決を拠り所に、譲渡所得の収入金額の収入時期は資産の所有権等の権利が相手方に移転した時で、資産の所有権等の権利が相手方に移転した時の年分のものとして総収入金額に算入すべきと解釈。その上で、原処分庁認定の年分に、譲受人の外国法人の代理人が代表者に代わって譲渡合意書に署名し、譲渡契約を締結する権限も付与されていたことから、少なくとも外国法人の代表者が譲渡合意書に署名して譲渡合意の締結を追認したと認定。

 また、法律行為の成立及び効力の準拠法を選択する当事者間の合意は抵触法上の行為であり、実質法上の合意である法律行為そのものとは区別されるべきとも指摘。さらに、実質法上の合意の行為そのものに意思表示の瑕疵がある場合でも、当事者間の合意にまで意思表示の瑕疵があるとはいえず、瑕疵があるというためには抵触法上の行為である当事者間の合意そのものに意思表示の瑕疵があることが必要も指摘。結局、納税者が主張する錯誤及び詐欺は実質法上の合意そのものに関わるものでしかなく、抵触法上の合意の成立に意思表示の瑕疵があるとはいえないと判示して棄却している。

(東京地裁2013.08.30、平成21年(行ウ)第455号)