行為無効の返還債務は現実に返還された時に必要経費算入
カテゴリ:02.所得税 裁決・判例
作成日:11/02/2010  提供元:21C・TFフォーラム



 社会保険診療報酬の不正請求の判明に伴って返還すべきことになった不正利得返還債務及びその加算金が、事業所得の必要経費に算入できるか否かが争われた事案で、国税不服審判所は不正利得返還債務及び加算金であっても現実に返還されるまでは担税力があり、現実に返還した時に必要経費に算入すべきと判断して、審査請求を棄却した。

 この事案は、病院を経営する医師が審査請求していたもので、社会保険診療報酬の不正及び不当請求が判明したことに伴って返還すべきことになった不正利得返還債務及びその返還債務に課される加算金の金額を事業所得の必要経費に算入して申告したことが発端になっている。

 これに対して原処分庁が、返還債務については現実に返還していない部分、加算金については全額の必要経費算入を否認、更正処分してきたわけだ。そこで医師側は、所得税法施行令141条が定める「無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われ」とは、不当な権利行使の結果として得ていたはずの経済的成果が無効の法理によって一転して不当利得であるとされ、不当利得返還義務が生じることを意味するから、現実に返還した時と解する余地はないと主張して審査請求していた。

 しかし裁決は、事業所得に対する課税は納税者の担税力に着目してなされ、所得が無効な行為によって得たものでも、それが現実に返還されるまでは担税力を有し、担税力が失われるまでは損失が生じたということはできないと指摘。その結果、無効な行為により生じた経済的成果が行為無効に基因して失われるとしても、現実にその債務を返還した時に必要経費に算入されると解するのが相当であるとして、審査請求を棄却している。

(国税不服審判所、2009.08.28裁決)