法人設立後の司法書士の個人事業者として業務の事実を否認、棄却
カテゴリ:02.所得税 裁決・判例
作成日:08/19/2015  提供元:21C・TFフォーラム



 法人化した司法書士の個人事業主としての確定申告をめぐり、広告代理店に支払った広告宣伝費の必要経費性、広告宣伝費に係る消費税の仕入税額控除の可否が争われた事件で横浜地裁(石井浩裁判長)は、法人設立後、個人として司法書士業務を行っていた事実が認められず、広告代理店に作成を依頼したポスターの宣伝効果も法人に及ぶと判示して、司法書士が求めた原処分の取消しを求める訴えを棄却する判決を言い渡した。

 この事件は、法人化した司法書士が個人事業者としての申告の際に、広告代理店に支払った広告宣伝費を必要経費に算入するとともに、その費用に係る消費税額を仕入税額控除して所得税額及び消費税額を算出したのが発端になったもの。しかし原処分庁が、広告宣伝費としての必要経費算入、消費税額の仕入税額控除を否認、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしてきたため、司法書士がその取消しを求めて提訴したという事案である。

 司法書士側には、個人として申告した年分の年末に、司法書士法人の設立登記申請をしたところ、同日に設立登記、法人を設立したという事情があった。そこで司法書士は、広告契約は個人名義で締結し、広告宣伝費として支出したものであり、かつ契約当時、法人が事業を行うことは不可能であったから、個人の業務のために支払われたものであると主張したわけだ。

 これに対して判決は、必要経費の性格を説明した上で、広告宣伝費は司法書士業務の収入を得るために直接に要した費用とは言えないと指摘するとともに、2回目以降のポスター記載の広告掲載者が法人名であることや、法人化後は法人の社員としてのみ司法書士業務を行っていたことからすれば、いずれも法人に関する広告であったことが明らかと認定。

 さらに、当初のポスターの広告掲載者が司法書士個人名義であっても、事務所の所在地や電話番号が同一であるから、宣伝効果は法人に及ぶとも認定。結局、法人化後、個人として業務を行っていたとは認められないと判示して、司法書士側の訴えを棄却する判決を言い渡した。

(2014.11.19横浜地裁判決、平成25年(行ウ)第67号)