土地等の譲渡損失の損益通算規制措置は公益上の要請と判断
カテゴリ:02.所得税 裁決・判例
作成日:10/04/2011  提供元:21C・TFフォーラム



 平成16年度税制改正の際に導入された土地・建物等の譲渡損失の損益通算規制措置が施行日前の1月1日に遡って適用されたことが、憲法84条に違反するか否かの判断が争われてきた事件で最高裁(金築誠志裁判長)は、暦年初日への遡及適用は具体的な公益上の要請に基づくものであったと判断、憲法違反にはならないと判示して上告を棄却した。

 この事件は、平成16年度税制改正の際に導入された土地・建物等に係る譲渡損失の損益通算規制措置が、改正法の施行日(16年4月1日)前に行われた土地・建物等の譲渡にも適用されるのは、納税者に不利益となる遡及立法であり、憲法84条違反と納税者が主張、千葉地裁を皮切りに最高裁まで争われてきたもの。

 納税者は、長期所有土地の売買契約を平成16年1月30日に締結して3月1日に引き渡し、翌17年9月に所得税の申告書を提出した後、損益通算が認められるべきであると主張して還付請求をした。しかし、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしてきたため、千葉地裁、東京高裁の棄却判決を受けた後、更に上告してその取消しを求めてきたという事案である。

 最高裁はまず、土地・建物等に係る損益通算規制措置の立法目的と立案過程に触れ、資産デフレ対策等を早急に実施することを予定したものであったと認定。また、暦年当初への遡及適用は、適用を遅らせると、損益通算による租税負担軽減を目的にした駆込売却が多数行われ、立法目的を阻害する恐れがあったため、これを防止する目的によるものだったとも認定。それは、大綱の新聞報道の直後から、税理士事務所等による不動産売却の勧奨が行われていた事実等からも伺えると示唆、暦年当初への遡及適用は具体的な公益上の要請に基づくものであったということができると判断した。

 また、暦年初日への遡及適用によって暦年全体を通じた公平が図られる面がある一方、租税負担軽減の成果を得られない以上に、一旦成立した納税義務が加重されるなどの不利益を受けるものではないとも指摘して、上告人(納税者)の主張を棄却している。

 一方、東京地裁から始まった類似の事案についても、憲法違反を否定、上告を棄却する旨の判決が1週間後に言い渡されている。これで一連の事件に決着が図られたことになる(古田佑紀裁判長、2011.09.30最高裁判決、平成21年(行ツ)第173号)。

(2011.09.22最高裁判決、平成21年(行ツ)第73号)