譲渡所得の課税要件を充足していないと判示して原処分を否定
カテゴリ:02.所得税 裁決・判例
作成日:08/19/2014  提供元:21C・TFフォーラム



 株式の譲渡に伴う譲渡所得が発生しているか否かの判定が争われた事件で、東京地裁(川神裕裁判長)は一連の手続きが原告の全く関与しない状況の下で行われたものであると認定した上で、無権代理行為によって株式の譲渡による経済的成果が帰属したとみることはできないと判示して、原処分を取り消した。

 この事件は、原処分庁が確定申告に対して株式に係る譲渡所得の申告漏れを指摘して更正処分の上、過少申告加算税の賦課決定処分をしたのが発端。そこで納税者側が、原処分庁が譲渡所得とみなした金員は被相続人が代表取締役を務めていた複数の法人に対する納税者の預け金が返還されたものであると主張して、原処分の取消しを求めて提訴したもの。

 しかし原処分庁は、株式の譲渡に関する被相続人の代理行為が無権代理行為であるとしても、株式の譲渡代金であることを認識し、無権代理行為による法律行為の結果生じた経済的成果を自己のものとして費消しており、被相続人の無権代理行為による法律効果を追認したものと認められるから、株式の譲渡による譲渡所得が発生していると反論した。

 事件の背景には、原告を後継者に考えていた被相続人から、株式の取得費用にあてるため報酬の一部を積み立てるように命じられ、20数年間にわたり、報酬の一部を企業に預けていたという事情があった。

 判決は事実認定の上、課税の対象が私法上の行為自体ではなく、私法上の行為に伴う経済的成果すなわち譲渡所得の場合、私法上の行為に錯誤等の瑕疵があっても、経済的成果の発生が現に認められる限り、課税要件は充足し、課税は妨げられないと解釈。しかし、原因たる行為が何ら存在せず、そのような行為が存在するかのような外観が作出されたにとどまる場合はその前提を欠くと指摘した。

 その上で、譲渡者本人が関与しない状態での無権代理行為の場合は、財貨の移動の存在すら認識していない場合も多いため、財貨の移動、譲渡による経済的成果の発生・帰属が明確に認められるか、本人の追認等がない限り、譲渡所得の発生を肯定することはできないと判示。結局、譲渡所得の課税要件が充足されているとは認められないと判示して、原処分を取り消す旨の判決を言い渡している。

(2013.10.31東京地裁判決、平成23年(行ウ)第765号)